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「トーマル、どうしてここに?」
全体的に色素が薄く、儚げな印象を与える男──啼鳥 蜀円は学生時代からの友人だ。
「バイト帰りだ。あー、腹減った。何か食いに行こうぜ……って、連れかい?」
すみれ色の大きな目をくりくりとさせてトーマルは私の後ろを興味深そうに見ている。
ふと首だけで振り返ると、頬を紅潮させてポカンと口を開いた醜男の姿。
こいつ、まさか……。
「てゆーか前髪長過ぎじゃないのか? それ見えてんのかよ!」
ケラケラと笑うトーマルに、モジモジしながら花嵐は言う。
「み、みえ、見えます。ちゃんと見えてます、その、ええと、……すごい、天使みたいで綺麗ですね! しゅ、宗教画から出てきたみたいな!」
宗教画の天使とは言いえて妙だな。変に納得していると、トーマルは顔を歪める。
「ぼくは男に綺麗だのと言われても嬉しくないぜ。そうだなぁ、"かっこいい"とか"イケメン"とかなら許可だ。男たるもの男らしさを称えられた方が気分がいいというものさ。キミだってそうだろう? そういえばキミの名は? ぼくはまぁ男の名前は覚えないタチなんだがな!」
トーマルの相変わらずのマイペースは初心者には荷が重いようで、花嵐は私の後へと隠れる。
「トーマル、これは今私と一緒に仕事をしている花嵐だ」
「小説家か!」
「違う、漫画家だ」
「漫画家か! ……漫画家? 何で漫画家? カリン、漫画家になったのか??」
「私は小説家だ」
「よく分からんな。これは飯を食いながら話すしかないな!」
グーグーと腹を鳴らすトーマルはとりあえず食事が出来れば何でもよさそうだ。
「なら、割り勘でね」
「奢れよ!」
「私はお前を必要以上に甘やかさない」
童顔のトーマルがぷぅと片頬を膨らませのは本当に可憐だ。ああ、こいつは黙っていれば完璧だ。
「ならナントカ嵐くんも一緒に食いに行こうぜ。割り勘なら頭数が多い方がいいだろ」
……本当に黙っていてほしいな。
***
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