1人が本棚に入れています
本棚に追加
弟は沈黙に耐え切れず、少し先を行く兄に小さく声をかけた。
「お兄ちゃん、いる?」
しばらく返事はなかった。「お兄ちゃん」
声がした。「いるよ」
少し前まではがやがやと人の声もして、ここに来るまではオレンジや青の街灯も輝いていたが、今二人の周りは黒々と、静かな暗闇に包まれている。
星々は遠く光を放ってはいるが、それは二人の旅路を明るく照らすほどではなかった。
「よかった」
「あんまり話しかけるんじゃないよ」
「だって寂しいんだよ、黙ってると」
もう一つの理由はさらに寂しすぎて、弟は口に出せなかった。
だって、もうすぐお兄ちゃんと僕は、別々の道を行くんだろ。
「お兄ちゃん」
「なんだ」
「僕、ちゃんと手紙届けられるだろうか」
「……さあな」
実際、兄にも分からなかった。
その兄弟はそれぞれ、大事な手紙を懐に入れていた。その手紙を届けるのが、その兄弟の旅の最後の目的だった。
兄弟の懐に入っている手紙には、全く同じことが書かれている。それを別々のところにいる、別々の相手に渡すのだ。
……同じように手紙を携えて先に旅立った仲間は、少し前に行方知れずになった。今頃どこでどうしているか……。
そんなことを考えていた兄の頭に、ささやき声が響いた。
――振り返って。
時々響く、このささやき声。
上を見て……次は左……瞬きをして……。
また声がした。
――振り返って。
最初のコメントを投稿しよう!