長い旅の途中で

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 弟は沈黙に耐え切れず、少し先を行く兄に小さく声をかけた。 「お兄ちゃん、いる?」  しばらく返事はなかった。「お兄ちゃん」  声がした。「いるよ」  少し前まではがやがやと人の声もして、ここに来るまではオレンジや青の街灯も輝いていたが、今二人の周りは黒々と、静かな暗闇に包まれている。  星々は遠く光を放ってはいるが、それは二人の旅路を明るく照らすほどではなかった。 「よかった」 「あんまり話しかけるんじゃないよ」 「だって寂しいんだよ、黙ってると」  もう一つの理由はさらに寂しすぎて、弟は口に出せなかった。  だって、もうすぐお兄ちゃんと僕は、別々の道を行くんだろ。 「お兄ちゃん」 「なんだ」 「僕、ちゃんと手紙届けられるだろうか」 「……さあな」  実際、兄にも分からなかった。  その兄弟はそれぞれ、大事な手紙を懐に入れていた。その手紙を届けるのが、その兄弟の旅の最後の目的だった。  兄弟の懐に入っている手紙には、全く同じことが書かれている。それを別々のところにいる、別々の相手に渡すのだ。  ……同じように手紙を携えて先に旅立った仲間は、少し前に行方知れずになった。今頃どこでどうしているか……。  そんなことを考えていた兄の頭に、ささやき声が響いた。  ――振り返って。  時々響く、このささやき声。  上を見て……次は左……瞬きをして……。  また声がした。  ――振り返って。
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