長い旅の途中で

3/4
1人が本棚に入れています
本棚に追加
/4ページ
 その女性が巨大な四角い建物の明るいエントランスに入ると、玄関脇のところで作業服を着た男が脚立にまたがり、何やら丸まった大きな紙を広げ、壁に貼ろうとしているところだった。彼女は思わず足を止め、その紙がぴんと伸ばされ、順番に画鋲で止められていくのをうっとりするような眼差しで見守りながら言った。「また、張り替え?」  作業員は画鋲をひとつぐい、と壁に刺して言った。「みんな触っていくもんで」  女性はいたずらっぽく言った。「私もそれに加担してる」 「僕もです」  作業員は最後の画鋲を打ち終わると、脚立から降りて「曲ってないといいけど」とつぶやくと、貼られた紙を少し離れたところから見て言った。「よし」  二人の前には、真っ黒にしか見えない大きなポスターが現れた。  作業員がそれをしみじみと眺めて言った。 「いい写真ですよねえ」  そして、少し感傷的な口調になった。「……あの二人は、今頃どこにいるんでしょうか」  女性は、その横顔に話しかけた。 「あなた、この写真が撮られる前後のノイズ事件、って聞いたことある?」 「知ってます」作業員はポスターから目を離さず答えた。「かすかなノイズが、こう、交互に。まるで……」言いかけた作業員が口ごもった。 「まるで?」 「いえ、科学的じゃないんで、JPL(ここ)には相応しくないですね」 「大丈夫よ。たぶん、私も同じことを考えてるから」
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!