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その言葉に、作業員は女性の方を向いて微笑んだ。
「まるで、1号と2号が会話していたみたいだな、って」
女性も微笑み返した。「パイオニア変則事象の類かもしれないけど」
作業員はポスターの方へ向かって手を広げた。
「博士、最初に触ってくださいよ。この写真を撮ったチームの一員でしょう?」
「じゃあ、お言葉に甘えて」
博士は「兄」が最後に瞬きしたときの写真を見た。ペイル・ブルー・ドット。ほとんど真っ黒なその写真に、小さく青い点が写っている。彼女はその点を指の先で撫でて、つぶやいた。「頑張ったわね」
彼女は、二人のことを思い浮かべた。
知的生命体宛ての手紙を持って、搭載された機器を少しずつシャットダウンしながら、時速6万キロで、太陽系を抜け、地球から遥か彼方を、星あかりを灯台に、静かに、ひたむきに、今この瞬間も、孤独に旅を続けている二人。
作業員は脚立を片付け始めると、1度明るいエントランスの天井を見上げた。その上に続く宇宙を見上げるように。
「機械の探査機だということはわかってますけど、ついこう思っちゃいます。元気でな、って」
「そうね。ありがとう」
博士は笑顔で作業員と別れ、自分のオフィスへ向かって歩き出した。そしてふと、振り返った。
さっきの作業員の彼が、大事そうにそっと青い点に触れているのが見えた。
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