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いもうとの結婚
私の許嫁は、私との婚約が解消されて妹の柚子と結婚が決まっても困ったように笑っているだけでした。
私も許嫁も家のための家同士の関係だと知っていました。
だからこそ、柚子を受け入れていると理解しているのに、私といる時よりも幸せそうで受け入れなければいけない現実に打ちひしがれてしまう。
柚子は黒髪を美しく結い上げて母から譲り受けた着物を着てあの人と並んでいる。
祝言は言霊使いにとって特別な日です。
綺麗な妹と優し気な元許嫁をちらりと見る。
言霊使いの名家同士の婚姻にはたくさんの人が訪れている。
私はいないものとして扱われている。
お祝いの言葉さえかけてやれない人間はいないのと変わらない。
そんな事分かっている。
結婚式を始める前、祝いの膳をこの広い座敷に並べたときから覚悟はしていました。
私の席が無いこと位ちゃんと知っていた。
けれど、今日は妹の結婚式だから、言葉をかけられなくてもせめて笑顔で過ごしたい。
祝いの酒を炊事場から運びながら思いました。
涙を流してはいけない。
今日はおめでたい場なのだから笑顔でいなくては。
「ほんと柚子ちゃんと、正さんはお似合いだ!!」
酒に酔って上機嫌で話す親戚たちも楽しそうで、陽気で言霊にも力がこもっている。
本当に二人の幸せな門出を祝福している様に聞こえました。
みんなに望まれた幸せな結婚。
それが私にはとてもとても羨ましく思えました。
この中で私だけが言葉で二人を祝福できない事が申し訳なくて、二人の顔がちゃんと見れない。
よく分からない気持ちになってしまって、それでもあわただしくその日は働きました。
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