どういう経緯で

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どういう経緯で

夕刊配達。 なるものを、人生で初めて頼んでみた。 夫は私の相談を快く承知し、その日の夜のうちにネットでの登録を済ませてくれた。 夫。私にはもったいないほどの、というお決まりの形容詞を付けたくなるような優しい夫。欠点の特にない平凡普通なサラリーマンとの恋愛結婚である。 二十三という年齢で結婚を決めた私を両親は心配したが、夫はそんな二人の不安を現実のものとするにはあまりに完璧-というよりも、人畜無害の人だった。結婚の許可は予想通り、あっさりと下りた。 寝室は共用であるにもかかわらず、行為は十年間の中で二、三回あったかどうかというぐらい。 これはもう、何かひとこと言われるに決まっているから誰にも言わないと決めている。仕事もしていないので、親しい人と言っても高校時代から細々と続く友達くらいしかいないのだけれど。 私は世間いうところのレズなのかもしれない。 信じられないことだけど、そのことには最近気がついたのだ。 夫以外の男との関係が結婚前にも結婚後にも一度もないということや、その夫に対しても特別女らしい欲望を抱かないということを合わせて導き出した結果。もちろんこの私自身への疑惑も、誰にも話したことがない。 普段お金のかかることを特に望まない私が夕刊配達を夫に頼んでみたのも実のところ、この疑念に起因する。 ここ最近、買い物の帰りなどで近所に見かける夕刊配達員の女性に魅力を感じていた。 偶然その新聞会社の張り紙を見つけた私はその日の夜、さっそく夫に頼んでみたというわけである。
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