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 三月某日、ひとりの女性が逮捕された。 罪状は殺人未遂である。  アクリル板を挟んだ面会室に入ってきた女性は小柄で、まだ少女、というような印象だった。 彼女の名前はAとしよう。 「──はじめまして。Aさん」 「はじめまして、ツボミさん」  ツボミは私の名で、小声でも大声でもないAの声は非常に落ち着いていた。 この場に似つかわしくない、愛らしい声とも言えるAさんは前髪を指で直している。 「話をするんですよね?」  はっ、と彼女の手から目を上げた。  私はこういった面会を何度もしてきているが、両手首に拘束具を付けられている人は初めて見た。 「……はい、聞かせてほしいのですが──」 「──何も知らない人に話すのは抵抗があります。それはあなたも同じでは?」  私の名前と職業は伝えられているのだろう、しかしもう一度自己紹介をとAさんは言っている。
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