一章「水無月葬送曲」

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 忙しい音が、私の後を遅れてついてくる。  流れる景色。夕方に差し掛かった校舎の中は、天気のせいもあってかとても暗かった。あちこちに黴のような闇が傍観するように立っている。頭上の蛍光灯は私の行く先を照らしてはくれるが、どこか心もとない。  肺の中で空気が激しく擦れる音がする。その度に内側に擦過傷のような痛みが染みて、吐く息には血が混ざっていそうな気すらした。それでも、私は止まるわけにはいかなかった。  はやく、はやく。急がなければ、彼が行ってしまう。  運動は得意なほうではなかったけど、そんなことは関係ない。私が行かなきゃ、彼はいなくなってしまう。  ここではない、向こう側へ行ってしまう。  湿気で濡れた階段を蹴って、一段飛ばし。途端、ぐるりと世界が回転する。続いて痛み。転倒したのだと気づいても構ってはいられない。尖った直角の淵が脛の辺りを裂いた感覚はあったけど、無視して私は駆け上がる。  そして、ようやく辿り着いた最上階。蹴られて凹んだ跡のある鈍色の扉は、普段は施錠されている。ただ、今日に限っては鍵が開いていて、手首を捻るだけで、私はそこに行くことができる。  だから私は乱暴に、半ば蹴飛ばすようにして扉を開けた。  そこは、屋上。四角く切り取られた舞台の上。降り立った途端、全身を雨が濡らした。遮る天井なんてないのだ。だから彼がここを選んだ時点で、私の涙が隠れることは決まっていた。  そしてその彼は、思ったよりもほんの少しだけ遠くに立っていた。四方を囲む柵。私の胸くらいの高さしかなく、転落防止のために設置されたものなのだろうが、越えることは容易だろう。  現に、彼がいたのはその向こう側だった。いつものように猫背の彼は、私に背を向けたまま侮るようにして立っている。けれど、私が来たことに気づいたのか、勿体つけるようにのんびりと振り返ると、いつものような柔和な笑みを浮かべた。 「やあ、浅瀬(あさせ)。来たんだ」まるで、教室で挨拶でもするように。「この雨だから、誰も来ないかと思ったよ」 「……来るに、決まってるじゃん。何してるの。そこ、危ないよ」 「むしろ僕としては、危ないほうがいいんだけどね」  そう言いながら、彼は片足を浮かせた。彼の足の幅ほどしかない足場の上で、まるで自分の命を弄ぶかのように。  私の背筋に冷たいものが流れた。生温い雨粒とは違う、温度を失った一筋。それは触れた部分の体温を根こそぎ剥がしながら、足元まで伝っていく。 「ちょっと、やめて。冗談でも笑えないよ。いいから早く、こっちに来てよ」  悪い予感を振り切るように踏み出した一歩。直後、突き出された右手に制される。それ以上来ないでくれと、無言で告げていた。  無理矢理にでも距離を詰めることはできた。けれど、私が数メートルを詰めるのと、彼が後ろに倒れこむのとではどちらが早いか、考えるまでもない。  だから、私はこの時、素直に彼の右手に従った。  従って、しまった。 「浅瀬、僕はね、考えてたんだよ」  動けなくなった私に向けて、彼は言う。穏やかな調子も、こうなっては不安を煽るばかりだ。それでも、彼は続ける。 「ずっと考えてた。どうして自分が生まれてきたのか。どうして自分がここに在るのか。それこそ思春期に卒業しなきゃいけない悩みなんだろうけど、僕はずっと囚われてたんだよ」 「……どういうこと?」私は聞き返す。頭が追いついていない。彼が言っていることが、理解できない。  ただ、とにかく会話を続かせなければいけないと思った。もう少しすれば『皆』が来る。それまで彼を繋ぎとめておけば、きっと何とかなる。  雨が激しさを増す。何かを執拗に洗い流そうとしているかのように。或いは、その水量のカーテンで何かを隠そうとしているかのように。 「僕は、ようやく気づいたんだ。考えるまでもなかったんだよ」 「考えるまでもない……?」 「うん、考えなくたってわかることだ。僕が生まれた意味なんて」  なかったんだよ。  彼は声には出さなかった。もしかすると雨の音で聞こえなかっただけかもしれないけれど、口の形で何と言っているかはわかった。  彼は続ける、歌うように。楽しむように。悲しい話を誤魔化すように。 「見つからなかったんだ、探して、迷って、何度も躓いて。これ以上ないくらいに傷ついて、それでも僕にはわからなかった。だからきっと、意味は無い」 「意味がないとか、そんなこと」 「言わないで、って?」嘲るように。「もういいんだよ、そういうの」 「よくないよ。だって君、そこから……」  私には、その先を言うことはできなかった。口にするのが怖かった。言ってしまえばきっと、それは動かしようのない現実になる。  彼にとっての一歩は、たぶん、私が思うよりずっと軽い。だからここで私が間違えてしまえば、引き金は簡単に引かれることだろう。  私たちの毎日は、壊れてしまうことだろう。 「いいかい、浅瀬」でも、彼には遠慮なんてない。「僕らはただのタンパク質だ。リンだ。鉄だ。その他もろもろの何かだ。性交渉の結果として生まれただけで、そこに意味なんて在るはずもないんだよ」 「それは……」  寂しい、と思った。  私も彼も『皆』も、全部がそんな血の通わないものであるなんて、とても寂しい考え方だ。私たちがただの肉の塊であるなんて、そんなことは言ってほしくなかった。 「否定、できるのかい?」  彼は問うてくる。硝子のように透いていたはずの瞳は、しばらく見ないうちにどろりと濁っていた。まるで足元に溜まる泥水と同じような、不快な不透明。  私が言葉を装填するよりも、彼が口を開くほうが――早い。 「いいんだよ、君がどう考えていたって。どうせすぐに――わかることだから」  彼はそう言って、踵を返そうとした。唐突なタイムリミット。待って。反射的に口にしようとする。  瞬間。私の弱弱しい懇願を、大音響が追い越した。 「おいこら、何してんだよ!」  粗暴な声。けれど聞き覚えのあるそれは、私の時間稼ぎが成功した証拠だった。ドアの前にいたのは声の主である松前(まつまえ)先輩。ボサボサの明るい髪は雨に濡れて、じっとりと元気を失っていたが、その目つきと剥き出しにした犬歯は、見間違えようもない。  その背後から、遅れて二人。彼らは声こそ上げなかったが、私には十分だった。 間に合った。皆が来てくれた。その事実に思わず膝から力が抜けてしまう。  しかし彼はみんなの顔をゆっくりと見渡すと、「ああ、間に合ったんですね」  よかった。  そう呟いて、今度こそ背中を向けた。 「ふざけんなお前、止めろ!」大声を上げたのは、またしても松前先輩だった。そのまま足音が続く。駆け出したのだろう。  しかし、間に合うはずなどない。私にはわかってしまった、この手は彼には届かない。  なのに、私もそれに続く。後の二人も、スタートを切る音がした。それでも私たちの距離は、あまりに遠すぎる。  あちらとこちらは、致命的に離れてしまっている。  どうしてもっと早くこうしておかなかったのだろう。彼の話に付き合う前に、まずは手を掴まなければいけなかったのに。  どうして私には、できなかったんだ。  彼はもう、それ以上は何もしなかった。ただ力を抜いて、何もない空中に身を預けるようにして、嫌。やめて。 「いやあああああああああああ!!」  悲鳴が聞こえる。背後の誰かのものか、それとも私のものか。どうあれ、その響きはどうしようもないほどに破滅的で、何かが崩れてしまうような音にも聞こえた。  雨の中、伸ばした手が空を切って、柵にぶつかって、鈍い音。咆哮。遅れて痛み。  次に顔を上げたとき、そこにもう彼はいなかった。  もう。  どこにも、いなかった。  体中の血が凍りつくように冷えていくのを感じながら、私の頬を最後の暖かさが流れ落ちる。心拍が安定しない。頭の奥のほうが、キュッと絞られるような錯覚をする。  彼は、どこに行ったんだろう。感覚の遠のいた足で踏み出して、前のめり。掴んだ柵は冷たくて、そのまま、床の切れ目まで目を這わせて、そして。  そして。  私は、きっと。  きっと、この景色を忘れることができない。 ***  目を開けると、もう部屋には西日が差していた。  体を起こそうとして、二日酔いにも似た頭痛が体を縫いとめた。酒を飲んだ記憶はない。ということは眠りすぎか、あるいは体が目覚めを拒んでいるのか。どちらも大した違いはない。  ここのところ、起きていられる時間が短くなったような気がする。大して何をしたわけでもないのに体は疲弊し、脳が睡眠を求める。眠ったところで僕を待っているのはあの日の悪夢か真っ暗な意識の喪失でしかないのだが、僕がその欲求に抗うことはできない。  気だるさの残る体を半分液体のようにドロリと弛緩させながら、僕は天井を見上げる。そこに何があるわけじゃない。壁紙の微妙な凹凸が浮かび上がらせた影には意味のつけようもありそうだったが、それすらももう苦に思えた。  もう一眠りしようか。  そうすればきっと、夜が来るはずだ。そうしたら夕食を買いに行って、食って、寝て。今日という日をそれで終わらせてしまおう。  この傷が癒えるまでは、時間をそうやって溶かしていくことになるのだろう。でももう、それを咎める人もいない――と、僕は目を閉じようとした。  背景を、割れた歌が引き裂いた。  着信音。まったく構えていなかった僕は不覚にも唐突に歌いだした携帯端末に驚き、身を跳ね上がらせた。  誰からだ、まさか仕事終わりの岡田がまた掛けてきたのではないだろうな。もしそうなら出ないで切ってやろう。そんなことを考えながら、僕は充電器のコードを引き抜いた。  表示されていたのは十一桁の数字。名前は表示されていない。  僕は首を傾げた。見覚えのない番号だ、普段から着信の少ない僕の携帯に掛けてくるのは、だいたい同僚か社長と決まっている。どうあれ、電話帳に登録されていない番号からの着信はかなり珍しい。  知らない番号なのだから、出ないほうがいいのかもしれない。重要な電話なら掛けなおしてくるだろう。僕は指で応答拒否のアイコンに触れようとして、  ――何故か、その先端は応答のほうに触れた。  間違えたわけではない。タップする直前で、興味が不審を上回ったのだ。  つまらないセールスや迷惑電話なら、そのまま切ってしまえばいい。けれどもし。  もし、なんだ?  今更、何を期待しても仕方ないだろうに。こんな電話一本で、この現状が変えられるはずがないのだから。  ともあれ、僕は端末を持ち上げる。心拍の加速。耳に押し当てるまでの数秒が、過剰に引き伸ばされる。その端のほうで、僕は内心、聞こえるはずのない声が聞こえることを願っていた。 「よう、在原君。元気にしてるかい?」  期待は、ある意味で裏切られた。  そしてある意味で応えられた。  僕はその低く威勢のいい声に、確かに聞き覚えがあった。一瞬思い出せなかったが、到達までにそう時間はかからなかった。 「帷子(かたびら)――秀昌(ひでまさ)さん」僕は思わず、電話の向こうにいるだろう、その名前を口にした。 「おっ、よく覚えててくれたなァ。そうだ。二週間ぶりくらいか」  帷子。  それは、彼女の苗字。もうここにはいない、彼女の苗字。  そして、秀昌さんは彼女の父親だ。最後に会ったのは、さっき言っていたとおり二週間前。彼女の一件があってすぐのことだ。  僕は正直、殺されても文句は言えないと思っていた。僕が近くにいながら、彼女はあんなことになってしまっていたのだから。そうでなくても右拳くらいはもらうものだと、そう思っていた。  だから初めて病院で顔を合わせたとき、深く頭を下げられて、僕は面食らったのを覚えている。「娘が世話になったな、ありがとうよ」僕を責めることもせず、穏やかにかけてもらったその言葉は、当時の僕を幾分か救ったものだった。 「その節は、どうも……秀昌さんもお変わりないですか」 「たった二週間じゃあそんなには変わらないさ。ただ、まあ……」  秀昌さんはそこで言葉を切って、一度息を吐いた。掠れて濁った風の音。一拍の間。そして、「娘がいないことくらいにゃ、慣れたかな……」と一つトーンを下げて、寂しそうに呟いた。  僕は何も返せなかった。ただスマートフォンを握り締めたまま、次の言葉を待っていた。 「そっちはどうだい。そろそろ落ち着いたかい?」 「……ええ、まあ。まだ広くなっちゃった部屋に、慣れませんけど」  嘘だ。落ち着いてなんかいない。  僕の心の傷は、今も膿んでいる。こうしている間にも、壊死した肉の饐えた臭いが鼻を突いている。僕はあの雨降りの日から、これっぽちも立ち直れていない。 「そうかい、そりゃよかったよ」秀昌さんの声は元の調子に戻っていた。僕の下手な嘘が通じたのかは定かではないが、少なくともそれ以上の追求はなかった。  しかし、だ。話が長引けばどこかでボロが出るかもしれない。彼らに無用の心配をかけるのは、できれば避けたかった。だから僕は、もう一歩話を前に進めることにした。 「それで……今日はどうしたんですか? 突然、電話なんて」  まさか、僕の様子を確認するために連絡してきたわけではあるまい。かといって他に思い当たる節もなかったが、それはあくまでも僕の都合だ。  秀昌さんは、「ん、ああ、そうだったな」と呟き、一つ咳払いをして続けた。 「在原君、急で悪いんだが、何日かまとまった休みが取れたりしないか?」  頭に疑問符が浮かぶ。まとまった休み? 何のことだ? 「あの、それはどういう……」僕はおずおずと聞き返した。 「いや、ほらな。君とは娘の火葬のときが最後だろう。うちのがえらく君のことを心配しててな。よければ一度、遊びに来ないかい」  遊びに? つまりそれは、彼女の故郷に?  僕が彼女と出会ったのは、高校に入ってすぐだった。他の土地からきたという話は聞いたことがあったが、詳しいことは知らない。彼女はあまりそのあたりのことを語ろうとしなかったからだ。  私はね、描きたい絵があったからここまで来たんだよ。  そう言っていたのを聞いたことがあるから、恐らくは美大に進学するために、地元から出てきたのだろう。しかしそれがどこなのか、一度も聞いたことはなかった。 「あいつの故郷……ですか」  興味がない、わけじゃない。最愛の人のルーツを知りたくないわけがない。それにここでただ腐敗を待つだけの僕にとって、それは渡りに船。現状を変えるための、絶好の好機のようにも思えた。しかし、何となく僕の胸を、忌避の大きな塊が突いている。  彼女の両親と顔を合わせるのが嫌だというのが半分。どの面を下げて会いに行けばいいのだ。仕事をやめて、友人の気遣いを踏み躙って、こんな風に落ち込んだ僕が、今更どうしてそんなことができるのだ。  それに、赤い後悔。僕がその土地に行くことを、この赤い靄は許すのだろうか。彼女の実家にはもしかすると、僕が踏み入れていないあの部屋以上の痕跡が残っているんじゃないだろうか。  僕はそれに、耐えられるのだろうか。 「……いや、すみません。無理です」  僕は知らずのうちに、そう口にしていた。思考よりも言葉のほうが行き着くのが早かった。ある種の反射のように、僕は秀昌さんの提案を断った。  それはある意味、自問に対する回答のように。意味も無いとわかっていながら、僕は頭を下げていた。  見えているわけじゃないのに。 「そうかい、そりゃあ、困ったな」  秀昌さんが返してきたのは、予想もしない言葉だった。困った? どうして。、彼が困ることなんて、一つもないだろうに。 「いや、な。実は遊びに来てほしいってのは方便でさ、本当は仕事をお願いしようかと思ってたんだ」 「仕事?」繰り返す。その本音と建前は逆のほうがいいんじゃないだろうか、なんて思いながら「そりゃあ、僕にですか?」 「ああ。この時期に団体客が入っちまってさ。まだ観光シーズンじゃねえからいつもの学生バイトも雇ってなくてな。人手、足りねえのさ」  団体客? 秀昌さんは何の仕事をしているんだったか。聞いたことがある気がするが、思い出せない。しかし団体客というからには、客商売なのだろう。  なら、なおさら僕には向いていない。愛想もなければユーモアもない、気の聞いた冗談の一つも言えないつまらない男だ。接客なんてのは無理に決まってる。  秀昌さんには悪いけれど、今回の話はなかったことにしてもらおう。そう決意して、言葉を喉下まで持ち上げて。  その時、微かに掠れるような音を聞いた。  潮騒。本当に小さく、背後に寄せる波。あまり海に行ったことはなかったが、それでも、聞き間違えるはずのない、穏やかな水の音。秀昌さんは今、海辺にいるのだろうか。ということは、彼女の地元というのは海辺の町なのだろうか。  ……海辺? 「……まさか」不意に浮かんだ疑問は、僕の視線を一転へと誘導した。  首を捻って、南側。そこに浮かぶ一枚の絵。彼女が描いた、港町の風景。  これはもしかして、彼女が自身の故郷を描いたものだったのだろうか。だとすれば、まるで本物を見てきたかのように描き込まれていたのにも、普段抽象画しか描かない彼女がこの絵を描いたのにも納得がいく。理由がつけられる。  理由。  この絵を描いた、理由。 「……おーい、どうしたんだ。聞こえてるかい?」  秀昌さんの声、けれど僕の耳には入らない。入っても頭までは到達しない。僕の意識は、完全に目の前の一枚に絡め取られてしまっている。  これは、彼女が見た風景なのだ。幼い頃、そうでなくても僕と出会う前、目に焼き付けた状景なのだ。  その時、彼女は確かにそこにいた。町を一望できる場所に、こういう風に町を切り取れる場所に、確かに立っていた。動いていた。息をしていた。  生きて、いた。 「…………僕は」知らずのうちに、呟く。まさか、本当に思っているわけではない。これは錯覚だと、頭の冷静な部分ではわかっている。  けれど、どうしても考えてしまうのだ。この絵の町、この場所に行ければ、もしかして。  もしかして生きた彼女に会えるんじゃないか。なんて。 「おーい、電波悪いのか? 在原君、聞こえてるかー」 「行きます」僕は、確かに言った。「やっぱり、行かせてください」  合わせる顔なんてない。  行ったところで、碌なことにならないかもしれない。  けれど、それでも。僅かにでも可能性があるのなら。もう一度、彼女に会えるかもしれないのなら、僕は。 「……そうかい、助かるよ。んじゃ、まあ、とりあえず日時と場所を教えるから、メモを取ってくれるかい」  秀昌さんに従って紙片に道順を書き写しながら、僕はずうっと、あの絵を見ていた。  そうだ。僕は聞いていた。彼女からあの絵のタイトルを。今ならきっと、苦もなく思い出すことができる。 「えーっとな、その町からバスで30分くらいのところにあるのが目的地。俺らが待っている――」  あの絵の、題名は。 「奥瀬(おうせ)。奥瀬町、だ」
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