彼女と私が友達になるまでの物語

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 声がひっくり返らないように、早口になりぎないように。  小さく頷き、乾いた唇を舐めてから私は口を開いた。 「川嶋陽香(かわしまようか)です。東京から引っ越してきました。富山のことは……まだ全然わからないんですけど、早く皆さんと仲良くなりたいと思います。よろしくお願いします」  頭を下げると、拍手が聞こえた。  5つ数えて頭を上げると、今日からクラスメートになる約40人の目線はまだ私に集中していた。眩暈がしそうな感覚に襲われながらも私はできるだけ微笑んだ。 「はい、今日からみんな仲良くするように。じゃ、川嶋さんは井川(いがわ)さんの隣に座ってくれるかな」  担任の桑島先生が指さした先は、教室のいちばん後ろにある誰も座っていない席だった。その隣の席で手を挙げているショートカットの女の子が見えた。あの子が「井川さん」なのだろう。  私は一つ頷き、その席に向かって歩き出した。  ここから新しい私の日々が始まる。  この町では新しい自分になるんだ。
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