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1.はじめましてのプロローグ
今日も今日とて、世界は平和だった。
六時半にアラームで目覚め、顔を洗って朝食にはカリカリのトーストと珈琲。付け合わせのサラダと、目玉焼きはなんと双子だった。朝一のラッキーに、軽く心が弾む。
鞄に忘れ物がないか確認すると、ちょうど隣室から出て来た友人と共に教室に向かう。この学校は全寮制で、二年生からは一人部屋と二人部屋を選ぶことが出来る。成績優秀者ほど優先されるので、一年の時は必死に勉学に励んだものだ。
自席につき、教科書類を机の中にしまっていると、教室がにわかにざわめいた。
自他共に認めるどこに出しても恥ずかしくないモブ、モブ山モブ彦はふっと何気なく顔を上げ、次の瞬間強すぎる輝きに目をやられた。
興奮した様子の友人と共に、目を庇いながらも指の隙間から彼らを窺う。
「今日もお美しいな…」
「マジで尊い…朝からありがとうございます今日もぼくは幸せです」
「おい、今こっち見なかったか!?」
「バカ、五色様がぼくら庶民に視線を向けるわけないだろ」
教室に入ってきたのは、この国随一の名家、五色家の葵様と翠様、そして——
「やっぱ俺、白薔薇姫最推しだわ…」
「わかりみが深い」
「いや、ぼくは翠様かな」
「葵様こそ至高だろ!」
「いや茜様」
「琥珀様」
「菫様」
モブ山の最推しは“白薔薇姫”こと、式部彩様だ。長い御髪は黒いリボンで一つにまとめられ、物憂げな瞳は水晶の如く。汚れを知らない肌も、男とは思えない華奢な肢体も、全てが姫の名に相応しい容姿である。
ぽーっと見惚れていると、不意に式部様が視線を上げ、こちらを見る。目を逸らすことも出来ずに固まっていると、ふわりと微笑を浮かべ軽く会釈した。
「ああああああああああああああああああああ」
「ありがとうございますありがとうございます」
「流石のファンサ…神か…?」
「聖母マリアの御光が見えた…」
今日も今日とて、限界オタクは忙しい。
そして、騒がれている当の本人はと言うと。
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