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「彩、帰るよ?」
「ぅーーーん…………ちょっと待ってください、生徒会室にUSBだけ回収しに…」
休み時間を全部睡眠時間に当てても、俺の眠気は取れなかった。授業中?寝るわけないだろ、ただでさえ生徒会が忙しいんだ。授業で聞き逃したところをわざわざ時間を割いてやるなんて馬鹿げてる。
葵は小首を傾げて俺の挙動を見守っている。帰り支度が終わったのを見計らうと、すたすたとドアへ向かった。ちなみに翠は委員会だ。彼は文化祭実行委員長を務めている。二年生なのに、ご苦労なこった。
この学園は、極端な実力主義である。有能であれば、たとえ一年生だろうと委員長や生徒会長を務めることもできる。今の生徒会長もそのクチだ。
葵も図書委員長だが、今日は仕事が無いらしい。心なしかご機嫌だ。
生徒会室は教室とは別棟にある。無駄に長い渡り廊下を歩き、黒光りする豪奢な扉を軽く叩いた。
「あれ、彩。と、葵?今日は寮で仕事するんじゃなかったか?」
「こんにちは、彩くん、葵くん」
中に居たのは主の一人、五色茜。それと、事務の速水詩音だ。ふわふわの髪が夕陽を映して金色に輝いている。
「今日も可愛いですね、詩音」
「ふふふ、ありがとう」
頬を緩めて笑う詩音。さすが、褒められ慣れている。可愛さがとどまるところを知らない。
「おい無視すんなよな副会長」
「無視はしてませんよ会長。優先したのが詩音との会話だっただけで」
むうっと不機嫌な顔をする茜は、生徒会長である。つまりはとても優秀。やんなっちゃうぜ。
「で、何しに来た?」
「USBを取りに。そんなに急かさなくても、すぐ帰りますよ」
「いちいち返答が天邪鬼なんだよな…」
「うるさいです」
軽口を叩き、一礼すると茜は『さっさと行け』とでも言うように手をひらひら振った。俺は犬か。
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