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USBを回収すると、葵と共に学校を出る。彼と俺は、悔しいことに足の長さが違う。葵が普通に歩く速さは俺の小走りだ。牛乳も飲んでたし朝ご飯も抜いたことはないのに、背は全然伸びなかった。もちろん筋肉も無い。
身体の華奢さを武器にする男もこの学園には一定数居るが(何に使うのかはぼかしておく)、俺はそういうのは好まない。もっと身長も欲しいし、筋肉もついて欲しい。
「葵は背、高くて良いな」
校舎を出たし、周りに人も居ないので素の口調で喋る。“サマ”をつけてないので、葵は嬉しそうだ。心なしか、尻尾を振っている気がする。
この学園には、寮が全部で四つある。普通の生徒が暮らす一般寮は、一番大きくて五階建て。委員長や生徒会、部長など役職持ちの生徒はリーダー寮とかいう何の捻りも無い寮に住んでいる。冒頭でも言ったが、ネーミングセンスの無さがカンストしている。
教師や事務員は、教員寮。で、俺と五色家の面々はというと。
“特別寮”という名の、一戸建てに住んでいる。
あからさまに特別扱いされている訳だが、そもそも学園が五色のものだ。文句を言うのはごく少数である。俺はその執事なので、これも仕方のないこと。文句を言う奴がいたら叩きのめす。バレないように。
「…おれは、彩くらいの背も好きだよ」
おっとデレた。ふにゃりと笑う顔は、何というか、あれだ。
柴犬スマイルだ。
「そう言ってもらえると、嬉しいですね」
葵が好きと言うのなら、まぁ、今のところはこのくらいの背でも悪くはないだろう。
まだ成長期を諦めてはいないが。
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