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「やっほー、いずみん。元気ー?」
「元気ではないね」
「白衣脱いだら?」
「僕のアイデンティティをこれ以上捨てるわけにはいかない」
「コンタクトだもんね」
茜の言った通りじゃんか。
とは言ったもののやはり暑いようで、袖を肘のあたりまで捲っている。インドアのくせに割と筋肉がついていて、それを見たチワワがまた悲鳴。今日何回悲鳴あげてんだろう。喉枯れそう。
「俺は別に暑かねぇからな、そいつと違って」
「あ、冷えピタ」
「ッおい五色琥珀!バラすんじゃねぇ!」
「いやこれはバラされて然るべきだよね。それとも剥がそうか?」
「そしたら暑いだろうが」
「……えい」
琥珀に気を取られている隙に、葵がぺりっと冷えピタを剥がした。瀬尾先生が、ムンクの叫びみたいな顔になる。
「諦めて脱ぎません?」
「………………式部が言うと、エロいな」
「せいっ☆」
「ぐはっ、いってぇな何すんだよクソ日向!」
真面目な顔でセクハラしよったこいつ。そして日向先生、容赦のない回し蹴り。瀬尾先生の背中にクリーンヒットした。やるな。
そのまま首根っこを掴み、「邪魔したね」と引き摺りながら笑顔で手を振る。大の大人を軽々と…あんまり甘く見ない方が良いかな。
「…嵐みたいな人たちだね」
「それは同感です」
一歩引いたところで眺めていた翠が言った。まったく、何しに来たんだあの大人たちは。
「ーーあ、始まるよ」
誰が言ったのか、その言葉を合図に騒がしかった応援席が静まっていく。
自らを率いるトップの勇姿を、見逃すまいと。
その中央に、凛と佇む茜と叶恵さん。
いつもの啀み合いはどこへやら、静謐な視線で、敬意すら持って互いを見る。
ドォン、と腹の底に響く大太鼓で前に進み出て、同時に一礼。
応援合戦、と名はつくものの、その本質は術師社会に脈々と受け継がれる伝統的な舞である。
互いの健闘を祈り、讃えるための舞。
特別な衣装をまとい、普段からは想像できないほどに繊細で、儚く、力強く舞う。
別人のような主を、俺はただ、黙って見つめていた。
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