6.手加減なんてしないよね

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「叶恵」 「叶恵さん!ヘルプ!」 「ほら、手、離しなさい。……あーあ、せっかく綺麗に結んであったのにねぇ」 茜の手首をガシッと掴み、力尽くで引き剥がす叶恵さん。強いな。 ぼさぼさになった俺の頭を見て、はーっと深いため息。え、そんなに酷いんですか? 「女の髪は命なのよ?汚い手で触っていいもんじゃないの」 「あの、私は男ですが」 「知らねぇ、そいつが先にデコピンしてきやがった」 「餓鬼か」 「ああ?」 「あの、往来で睨み合うのやめてくれます?」 「表出ろ…って言いたいとこだけど、今はコレを直すのが先決ね。彩ちゃん、次のリレー、出場するのかしら」 「あ、はい」 「走順は?」 「三番です」 「じゃあ時間あるわね。ちょっとこっちに来なさい」 手を引かれるまま、ついて行こうとすると茜が反対の手を掴む。 「…どこ連れてく気だ」 「髪の毛結び直すのよ。アンタはどっか行ってなさい」 しっしっと犬を追い払うような仕草。茜が不機嫌そうに舌打ちした。 「………俺も行く」 「えなんで?」 思わず素で訊いてしまった。叶恵さんが後ろで吹き出した。 茜は今度はバツが悪そうに頰を掻く。 「…叶恵の野郎にお前を預けられるかよ」 「あなたは叶恵さんを何だと思ってるんですか??」 「クソ野郎」 バコッと鈍い音。 「ッ、いった…」 叶恵さん、割と本気で殴ったな。めちゃくちゃ痛そうに茜が頭を押さえてる。通りかかった生徒(多分茜ファン)が二度見したが、叶恵さんのひと睨みで逃げて行った。 「まったく、“待て”も出来ないのかしら。アタシがこの子に手ェ出す訳無いじゃない」 圭が居るんだし、という心の声が容易に聞こえる。言外に惚気るの、やめてもらえますかね。 結局茜は諦めたらしく、不満そうに「…何かされそうになったら躊躇わず殴れよ」と俺に囁いて去っていった。お前、叶恵さんを狼か何かだと思ってないか?
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