6.手加減なんてしないよね

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叶恵さんはモニタールームの近くにある控え室へ俺を連れて行った。鏡の前に座らせると、どこからか櫛やらヘアゴムやらを取り出す。 「えっと、連れて来てもらってなんですが、自分で直せます」 「あら、別に厚意でも何でもないから遠慮しないで。アタシがあなたの髪を弄りたいだけ」 そう言われると、無闇に断れない。大人しく、されるがままになるしか無さそうだ。 リボンを解くと、ふわりと髪が降りる。 「…ほんっとーに綺麗な髪ね。かなり長めなのに、櫛がまるで引っかからないわ」 「ありがとうございます」 俺の髪は、背中の真ん中辺りまである。十歳になってから、一度も切っていない。 鏡越しでも、叶恵さんの手つきはプロのそれだとわかった。聞けば叔父が美容師だそうで、昔から色々なヘアスタイルを教えてもらい、試していたのだという。 「家を継ぐ権利は父に譲って、自分は美容師になってね。窮屈なのは嫌いなんだって笑いながら言ってたわ」 「自由な方、なんですね」 「ええ、そう。尊敬はしてるけど、真似はできない」 叶恵さんは、間宮家の次期跡取りだ。それは既に決定事項で、今更覆らない。 「嫌ではないけど、生まれた時から生き方を決められてるのもちょっとね」 「…だからオネェに?、いて」 ぽかっと頭を小突かれる。茜とまるで扱いが違う。 苦笑して、彼は俺の問いに答えた。 「まぁ、間違っちゃいないわ。叔父の影響もあるし、女兄弟が多かったのもある」 「何人兄弟なんです?」 「姉が二人、妹が三人。男はアタシだけなのよ」 それは、 「…今、楽しいですか?」 するりと口から滾れ落ちたのは、ほぼ無意識の問いで。 言ってしまってから、デリカシー皆無だと気づく。 「すみませ、」 「楽しいわよ」 謝罪を遮るように、叶恵さんは鏡越しに微笑んだ。嘘偽りのない、本物の笑顔。 「ここには、圭がいて、菫がいて、あなたがいて。……………茜もいるし、腹立つことはあれど退屈なんてしないわ」 「…わたし、も含めていただけるんですか」 「もちろん」 そこには俺が不相応にも懸念したことなど一つも無く。 ああ、綺麗な人だなと、そう思った。
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