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「おはよ!」
「…っお、はよ」
ポンと肩を叩かれ、久我佑はビクリと肩を揺らしたあと、ゆっくりと振り向いた。
視線の先には、同じクラスの土屋澪。佑の反応に申し訳なさそうに眉を下げる。
「ごめん、急に声かけて」
「あ、いや。俺がぼんやりしてたから」
イヤホンを外しながら、佑は澪のあとに続いて改札を抜けた。二人が通う高校の最寄り駅は、今日も人でいっぱいだ。
見慣れた髪、背中、歩き方を見て、何も考えずに声をかけた澪は、佑のあまりの驚きっぷりに心の中で少し反省した。
知り合いを見かけて声をかけない方が気まずい。そんな単純な思考だった。
自然と並んで歩き始める。
「ほんとごめん。まさかあんなに驚かれるとは」
澪は少し大袈裟にリアクションをとり、人懐っこい笑みを浮かべた。
「そんな言われたら恥ずい」
澪の視線の先には、佑の手によってケースに戻される黒のワイヤレスイヤホン。乱雑にリュックサックの外ポケットに突っ込まれる。
「ていうか、今日は土屋さん一人なんだ」
「え?」
「ほら、真鍋さん」
「あー、渚は寝坊して一本後ので来るらしい」
今朝届いた『ごめん!先行ってて!』というメッセージ。
高校入学後、すぐに仲良くなった澪と渚は、毎朝二人で登校していた。佑もその光景を何度も見ていたのだ。
「そう言えば朔は?」
「ああ、あいつは寝坊」
「あはは。また?」
寝坊常習犯の進藤朔は、基本うるさく、クラスのムードメーカー的立ち位置である。
男女ともに友達が多く、澪や渚とも親交が深かった。
そんな朔と佑も入学直後に仲良くなり、田中大誠を含む三人が基本的にクラスでふざけている。
佑は女子からクールだと言われがちだが、実際、朔を含めた男子には人見知りをしない。男友達は多いが、女子と接するのは苦手なのである。
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