STEP1

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「おはよ!」 「…っお、はよ」 ポンと肩を叩かれ、久我(くが)(たすく)はビクリと肩を揺らしたあと、ゆっくりと振り向いた。 視線の先には、同じクラスの土屋(つちや)(みお)。佑の反応に申し訳なさそうに眉を下げる。 「ごめん、急に声かけて」 「あ、いや。俺がぼんやりしてたから」 イヤホンを外しながら、佑は澪のあとに続いて改札を抜けた。二人が通う高校の最寄り駅は、今日も人でいっぱいだ。 見慣れた髪、背中、歩き方を見て、何も考えずに声をかけた澪は、佑のあまりの驚きっぷりに心の中で少し反省した。 知り合いを見かけて声をかけない方が気まずい。そんな単純な思考だった。 自然と並んで歩き始める。 「ほんとごめん。まさかあんなに驚かれるとは」 澪は少し大袈裟にリアクションをとり、人懐っこい笑みを浮かべた。 「そんな言われたら恥ずい」 澪の視線の先には、佑の手によってケースに戻される黒のワイヤレスイヤホン。乱雑にリュックサックの外ポケットに突っ込まれる。 「ていうか、今日は土屋さん一人なんだ」 「え?」 「ほら、真鍋(まなべ)さん」 「あー、(なぎさ)は寝坊して一本後ので来るらしい」 今朝届いた『ごめん!先行ってて!』というメッセージ。 高校入学後、すぐに仲良くなった澪と渚は、毎朝二人で登校していた。佑もその光景を何度も見ていたのだ。 「そう言えば(さく)は?」 「ああ、あいつは寝坊」 「あはは。また?」 寝坊常習犯の進藤(しんどう)朔は、基本うるさく、クラスのムードメーカー的立ち位置である。 男女ともに友達が多く、澪や渚とも親交が深かった。 そんな朔と佑も入学直後に仲良くなり、田中(たなか)大誠(たいせい)を含む三人が基本的にクラスでふざけている。 佑は女子からクールだと言われがちだが、実際、朔を含めた男子には人見知りをしない。男友達は多いが、女子と接するのは苦手なのである。
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