STEP1

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「あっぶねー!」 バタバタと教室に走り込んできた朔。席に着くやいなや、腕で額の汗を拭っている。 朔の隣の席である澪は、ちらりと視線を向けた。澪の前の席に座り喋っていた佐藤(さとう)璃々子(りりこ)も、澪から朔へと視線を移した。 「おはよ。朔だけ真夏みたい」 「ほんとだねぇ」 「五月でこの汗は俺だけだな」 なぜかドヤ顔をしている朔に、澪は大袈裟に冷ややかな視線を向ける。 璃々子が自席に戻って行った数分後、一時限目の先生が入ってきた。 「まじで暑い」 「どんだけ走ったの」 「もう全力ダッシュよ」 一限目はおじいちゃん先生。 余程大声で話さない限り注意されることはない。一限目だと言うことも相まって、教室には緩んだ空気が流れていた。 澪も机の上に教科書は置いていたが、開くこともなく朔と話す。二人は一番後ろの席だった。 「あ、そうだ聞いて。今日、久我君と朝一緒に行ったんだ。いいでしょー」 「はあ?なんでつっちーが」 「たまたま会っちゃって」 「クッソ。俺が遅刻したばっかりに」 佑を取り合うというネタは二人の定番だった。 朔はわざとらしく大袈裟に悔しがる。 「俺だってな、今日佑と一緒に帰るから!」 「あーあ、朔が明日も寝坊してくれたら、久我君と一緒に行けるのに」 軽口を叩きながら、澪は当の本人の背中を見つめた。 一番前の教卓の隣という特等席に座る佑は、既に眠いのか机に伏せてしまっていた。 ーー寝るのはや。
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