言葉の使い方は難しい

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言葉の使い方は難しい

 そう遠くない昔のお話です。  とある豊かな国の王都で、若い娘ばかりが次々に死ぬ事件が起こりました。  異様だったのはその死に方です。なんと全身が炎に包まれ、生きたまま火だるまになって絶命したらしいのです。  国王直属の騎士団がこの事件の調査を命じられ、現場の近くの民に聞き込みを行った結果、ある程度事件の全容が分かって来ました。  犠牲者の一人の近くにたまたまいた男が、その最期の様子を目撃していました。その娘の全身から一斉に炎が上がり、生きたまま火あぶりになったように、そのまま焼死したと言うのです。  既に12人の若い娘が犠牲になっていました。娘たちが死の直前、何か火がつきやすいような物を持っていたとか、近くに大量の油などがあったという話は出て来ませんでした。  騎士団長は魔法をかけられたのではないかと推理し、部下の騎士たちに魔法使いの目撃情報も調べさせました。  果たして、犠牲になった娘たちは全員が、死の直前に同じ魔法使いに会っていたらしい事が分かりました。  騎士団は王都中を探し回り、遂に目撃情報にピッタリの格好の老いた女の魔法使いが若い娘と会っている現場を押さえました。  その魔法使いはただちに捕らえられ、裁判にかけられました。その魔法使いは遠い異国から流れついた者で、その国の言葉が少ししか話せませんでした。  裁判が始まり、騎士団長は人の言葉を宙に動く絵として浮かび上がらせる事ができる別の魔法使いを裁判の助手役として参加させました。  その裁かれている魔法使いと最後に会っていた、13人目の犠牲者になっていたであろう若い娘も証人として法廷に呼ばれました。  魔法使いが犠牲になった若い娘たちの体を炎上させた事は明らかになりました。魔法使い自身がそれを認めたのです。  証人の若い娘の証言も、魔法使いの言い分と完全に一致しました。  いよいよ魔法使いに対する判決が言い渡されました。なんと「無罪」でした。魔法使いは釈放され、外国へまた旅立って行く事になりました。  法廷から宿舎へ帰る道すがら、騎士団長はため息をついて、同行している部下の騎士に言いました。 「言葉がうまく通じぬというのは、時として恐ろしい結果を招くのだな」  部下の騎士も沈痛な顔で言いました。 「物は言いようと昔から申しますからな。今回は悪い方に働いてしまったというわけでしょう」  騎士団長は時折すれ違う若い娘たちを見ながら、またため息をついて言いました。 「その通りだな。自分の体の余分な脂肪を『燃やして欲しい』などと、言葉がよく通じない魔法使いに言ったから、あんな事になったのだからな」
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