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先の大戦の教訓
そう遠くない昔のお話です。ある所に、ご老人たちが若い頃に悲惨な大きな戦争をした事がある小国がありました。
その島国である小国は、長い間国境を閉ざして他の国と一切付き合っていませんでした。しかし、外国の商船の補給地として便利な場所にあったので、海の向こうの大国がいくつも集まって、その島国に国境を開くよう迫りました。
仕方なく国境を開いて、異国の民が自由に行き来できるようになると、その島国は物づくりや商売が発展し、以前とは比べ物にならないほど豊かになりました。
豊かになるとさらに欲が出て、調子に乗ってしまうのは異世界でも同じだったようで、その島国は海峡の向かい側にある大陸の帝国に戦争を仕掛けました。
大洋の西の向こう側の大国の国王たちは、最初遠い辺境の出来事と思って放っておきましたが、その島国が西の大国が大陸の帝国の中に持っている商売の特権を横取りするようになって怒り狂いました。
海峡の向かいの帝国から手を引けと、西の大国の国王たちは島国の国王に厳しく言い渡しましたが、島国の政治を実際に担当していた宰相や大臣たちは言う事を聞きませんでした。
西の大国がいくつもそろって嫌がらせをしたので、その島国は怒って、西の大国にも戦争を仕掛けました。
最初のうちは島国の海軍が目覚ましい活躍で戦いに勝利しましたが、戦争が何年も続くと、島国の中では魔法石や聖なる水などの、今で言うエネルギー資源が足りなくなり始めました。
西の大国の連合軍は反撃に転じ、巨大なロック鳥を船で島国の近くまで運び、燃える石をぶら下げさせ、島国の王都に火の雨を降らせました。
島国の兵士ではない町の民が大勢命を落としましたが、島国の宰相たちは降伏しようとしません。
西の大国の連合軍はしびれを切らし、島国の2か所の軍港の町に禁断の爆発魔法の箱を落としました。
さらに西の大国の連合軍に誘われた北の帝国が島国に宣戦布告し、大陸の帝国に展開していた島国の軍隊に攻めかかりました。
ここに至ってとうとう島国は降伏し、西の大国連合の指導の下で、国の再建を目指す事になりました。
それから70年以上の時が過ぎました。その後長らく戦争をせず、平和な暮らしを続けた島国では、二度と愚かな戦争をしないように、毎年夏に1度、あの悲惨な大戦の被害を経験したご老人たちのお話を、若者が聞くという習慣ができました。
なにぶん長い月日が経っていたので、お話を聞かせてくださるご老人たちも、実際に兵士として戦った人たちではなく、空から落ちて来る燃える石や禁断の爆発魔法に苦しめられた人たちが中心になりました。
ご老人たちが話す体験はそれは恐ろしく、悲惨で、悲しい事ばかりでした。島国のあちこちで、そのお話を聞いた若者たちは、怖さに震え上がり、女の子の中には泣き出す者さえいました。
その島国では戦争を仕掛ける事は二度としないという法律が作られていましたが、万が一他の国から戦争を仕掛けられた時に国を守るための防衛軍は再建されていました。
島国の大臣たちは、防衛軍の若い兵士にも戦争の悲惨さを知ってもらおうと、ある年から毎回、そのご老人たちのお話を聞く集まりに彼らを参加させました。
ご老人たちのお話を聞き終わって兵舎に帰ってきた若い兵士たちに、将軍がお尋ねになりました。
「どうだった? どれほど戦争が残酷で悲惨な物であるか、理解できたか?」
若い兵士たちは一斉にうなずき、あんな悲惨な事は二度と起こしてはならないと答えました。
将軍は満足そうにうなずき、帰って行かれました。その後、兵舎の広間で若い将校たちは、このような話を交わしました。
「ロック鳥に燃える石なんて、そんな古臭い方法でもあれだけの被害が出たのだな」
「うむ、海の向こうまで届く石弓を作っているという北の半島の王国は、今のうちに叩きつぶしておかねばならんな」
「翼を持つドラゴンの繁殖も急がないといかんな。あれなら人間の犠牲を出さずに、敵の軍艦を一撃で沈められる」
「ところで、先の大戦では、何故西の大国に我が国は攻められたんだ?」
「ご老人たちの誰も、その点については語っていなかったな。ただ空から落ちて来る燃える石にひどい目に遭わされたというようなお話ばかりで」
「俺も同じ疑問を持っていた。俺たちと西の大国では肌や髪や目の色が違うから、一方的に戦争を仕掛けられたのだろう」
「ならば、また戦争を仕掛けられる事は大いにあり得る。次は負けないように、もっと強力な兵器を我々も持たねばならん」
「禁断の爆発魔法の箱も開発した方がいいな。あれを持っていれば、先の大戦でもあそこまで一方的に殺戮される事はなかったかもしれん」
「それにしても戦争というのは、負けるとあれほどまでに悲惨な事になるのだな」
「全くだ。今度戦争をする時は、どんな手を使ってでも勝たなければ」
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