大地に優しい魔法の使い方

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大地に優しい魔法の使い方

 それほど遠くない昔のお話です。  長年の魔法使いたちの研究のおかげで、その時代にあった数々の王国では、馬車に代わって、魔力液という黒い水を燃やして走る車が多くの人々に重宝されていました。  魔力液は地面に深い穴を掘ると飛び出してくる物で、どこにでもあるという物ではなく、運よくそれを掘り当てた者は売って大金持ちになりました。  ただ、魔力液は燃やすと大量の黒い煙が出て、各王国の大きな町では空気が汚れるという欠点がありました。  とある島国の王国では、魔法使いたちが必死の研究を重ね、車から出る黒い煙を浄化する魔法石を作り出す事に成功しました。  それから数十年、各地の王国では空気もだいぶきれいになり、王侯貴族から町の庶民に至るまで、人々は魔力液で走る車に乗って、遠くまで旅や、買い物や、遊びに行くなど、便利な生活をしておりました。  ある時、西の王国にあった教会の修道士団が各地の王国に現れ、これ以上魔力液を使うべきではないと警告し始めました。  その修道士様たちが言うには、魔力液を燃やすとシーオーツーという目に見えない災いの素が空に放たれ、やがて世界中に滅びをもたらすと言うのです。  最初は半信半疑だった各王国の国王様たちも、次第に修道士様たちの意見を重く見るようになり、一番大きな王国の王都に集まって、どうするべきか話し合いました。  その国王会議に呼ばれた修道士の代表は、素晴らしい提案があると言って、手に持った箱を開けました。その中には、小さな雷獣が入っていて、小さな稲妻を発して宮殿の会議場を明るく照らしました。  修道士の代表様は、国王様たちにこう申されました。 「今後は、この雷獣を一匹ずつ車の中に置いて、この稲妻の力で車を走らせればよいのです」  発明に長けていた例の島国の王国で、魔法使いたちに試しにやらせてみると、確かに雷獣の稲妻の力で走る車が出来上がりました。  問題は雷獣の餌なのですが、修道士様たちがおっしゃるには、なんと、その雷獣は日の光か風が餌だと言うのです。  それならどこの王国でも餌には不自由しません。全ての王国の国王様たちは、魔力液で走る車を作るのをやめて、雷獣で走る車に取り換えるようにと、命令を出されました。  雷獣の稲妻で走る車は、魔力液で走る車に比べてとても静かで乗り心地も良かったので、たちまちほとんどの王国のほとんどの車が雷獣式になりました。  それから10年の月日が経ちました。相変わらず繁栄を極めている各王国に、またあの時の修道士団の方々がやって参りました。  だいぶお年を召された修道士の代表様は、国王様たちに青い顔で訴えました。 「私どもで世界中を調べた結果、目に見えない災いの素であるシーオーツーは減っておりません。それどころか、むしろ増えております。ただちにお国の車を調査して下さい」  国王様たちはあわててそれぞれの領地の車を全て調べさせました。しかし、どの王国でも車は全て、雷獣の稲妻で走る物に変わっていて、昔ながらの魔力液で動く車など、どこにも見当たりません。  国王様たちと修道士様たちは対策を話し合うために、一番大きな王国の王都に何か月も留まって話し合いを重ねましたが、対策どころか原因すら分からず、みんな途方に暮れてしまいました。  その会議の最中の、冬の曇った日の事です。あちこちの王国の、車を持っている庶民たちが幌を開いて車の中の雷獣の様子を見て、ため息をついていました。 「やれやれ、雷獣が腹を空かせすぎて、動けなくなっている。仕方ない。あれを持って来よう」  その人々は家の納屋から、ある者は小さな風車を、ある者は小さなガス灯を車の側へ運んで来ました。  風車やガス灯が乗っている箱の中に、人々はあの魔力液を入れて、火をつけました。  すると風車からは風が、ガス灯からは光が出て、雷獣はそれを食べて元気を取り戻しました。  雷獣がすっかり元気になって車が動きそうな事を確かめた、ある農夫は風車を片付けながら一人事を言いました。 「やれやれ、こんな日が差さず風もない日は、やはり魔力液が役に立つ。だが、妙だな。昔よりずっと魔力液をたくさん使っているような気がするのだが。ま、気のせいだろう」
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