魔法学院の優等生

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魔法学院の優等生

 それほど遠くない、昔のお話です。  昔から魔物がたくさん現れて人が襲われる地に、小さな王国がありました。遠い大きな帝国で魔法を学んできた魔法使いの方たちが、様々な魔法を使って魔物を国の中心部から追い出し、人々が安心して暮らせるようにしてくれました。  魔物に襲われる心配がなくなったため、王国の人々は昼間はもちろん夜も安心して市場やいろんなお店を営めるようになり、その王国の民は少しずつ豊かになっていきました。  民が豊かになったため、王室に納められる税金も増え、国王様も昔とは比べ物にならない程、お金持ちになりました。  その時の国王様がお年を召してお亡くなりになり、第一王子が新しい王様に即位なさいました。ところが、時を同じくして長年王国を魔物から守ってきて下さった魔法使いのみなさんが、引退したいと新国王に願い出ました。  新しい王様は、たいへん心の優しい、民を思いやる立派な君主でしたので、魔法使いのみなさんがもうすっかり年老いてしまっているのを見て、願いどおりにさせてやりたいと思われました。  ですが、魔法使いがいなくなってしまうと、魔物がまた襲って来ます。今の魔法使いのみなさんはそれぞれ弟子を持っていらっしゃいましたが、そのお弟子さんたちだけでは、とても数が足りません。  そこで新しい王様は、国中にお触れを出して、魔法使いとして国を守りたいという民を集めようとしました。  それなのにいつまで待っても、魔法使いとして国に仕えたいという若者が現れません。王様が大臣たちに命じて調べさせたところ、魔法使いになるには、とても長い年月の修業が必用で、昔よりは豊かになったとは言っても、日々の暮らしに追われる普通の民の若者には、そんな余裕はない事が分かりました。  王様が困り果てていると、魔法使いの中で一番位が低い者が、こう王様に言いました。 「魔法使いを育てる学校を作ってはいかがでしょうか? 今の魔法使いのみなさんに先生になってもらって、若者に魔法を教えるのです」  王様は、それはよい考えだと大変お喜びになり、王室の財産をたくさん使って王立の魔法学院を各地に十お建てになりました。  数年後、その王立魔法学院からは多くの若い、新しい魔法使いが世に出て、初代の魔法使いのみなさんは、安心して引退する事が出来ました。  王様のお妃様も、たいへん心優しいお方でしたので、お付きの騎士たちに町を歩いて民の不平不満がないかどうか、常に調べさせていました。  すると複数のお付きの騎士から、若者の間で大変強い不満の声があるという報告がありました。魔法学院の数が少なく、また入学試験が大変難しいので、魔法使いになりたくてもなれない若者がたくさんいて、王様に不満を抱いているというのです。  王様が若者に嫌われてしまう事を心配したお妃様は、王様に相談して、普通の民であっても、魔法学院を開いてよい事にしました。  たちまち国中に、百の民営の魔法学院が作られました。それまで畑仕事や市場の商売や大工仕事をしていた若者たちがたくさんその新しい魔法学院に入学しました。  その頃から、王国の辺境に巣食う魔物たちにも変化が起きていました。初代の、もう引退なさった魔法使いの方たちとの戦いで、魔物たちの方も魔法に対する抵抗力が強くなっていました。つまり魔物たちが昔より少し強くなったのです。  魔物が王国の中心部に近づかないよう守っている魔法使いの方たちが、苦戦する事が増えてきました。王様は苦労が増えた魔法使いのみなさんのやる気を高めようと、お給金を大幅に上げて差し上げました。  その話が伝わると、民営の魔法学院に入りたいという若者が、驚くほど増えました。ですが、民営の魔法学院の月謝は王立の魔法学院より高く、再び若者の間から不満の声が上がり始めました。  お付きの騎士からその事を聞いたお妃様は、王様に願い出て、王室の財産からお金を出して、民営の魔法学院にお金がないから入学できないと言っている若者に、貸し付けを始める事にしました。  学院を卒業後、王国を守る魔法使い軍団で働けば借りたお金は返さなくていい。魔法使いにならなかった場合でも、十年かけて少しずつ返せばいいという、大変ありがたい仕組みにしました。  そして待望の、民営の魔法学院の卒業生が世に出始めました。彼らはすぐに王国の魔法使い軍団に入り、王国を守るため魔物と戦う任につきました。  もちろん、国中の若者全員が魔法使いになりたがったわけではありません。新しく魔法使いになった若者たちは、そうでない若者たちを馬鹿にして、お互いに喧嘩になる事も多くなってきました。ですが、魔物から国を守る魔法使いの育成は王国にとってとても大事な事でしたから。王様もお妃様も、新しい若い魔法使いの暴言や乱暴狼藉には、民に我慢する様にとお命じになりました。  ところが、魔物との戦いの最前線である辺境の地の騎士様たちから、魔物との戦いに負ける事が多くなってきたという知らせが相次ぐようになりました。  最初はそれほどまでに魔物が強くなっているのか? そう思って心配になった王様は、まだご存命だった初代の魔法使いの一人を王宮に呼び寄せ、どの程度の魔法レベルなら今の魔物に太刀打ちできるのか、調べてもらいました。  ちょうど民営の魔法学院の一つから卒業生が出たばかりだったので、その老魔法使い様に彼らをテストしてもらいました。その仕事が終わるやいなや、老魔法使い様は、真っ青な顔になって王様とお妃様のもとへ駆けつけました。そして王様にこう言いました。 「陛下、あの者たちの魔法はそろいもそろってレベル28でございます。魔物と戦うには最低でもレベル70は必要。いえ、それ以前に、レベル28では、そもそも魔法使いを名乗る資格がございません」  驚いた王様はその老魔法使いを辺境で任務についている魔法使い軍団の支部にも派遣しました。戻ってきた老魔法使いがおっしゃるには、王立の魔法学院と、百ある民営の魔法学院のうち、八つの学院以外の魔法学院の卒業生は全員魔法レベルが28である事が分かりました。  お妃様がお付きの騎士たちに調べさせたところ、その九十二の民営の魔法学院では、学生は遊びほうけて魔法の修業などろくにしていなかった事が分かりました。さらにその多くでは、入学の際に魔法使いになれる素質があるのかどうかを調べる試験さえ実施しておらず、面接だけで入学を許可していた事が分かりました。  つまり、民営の魔法学院を卒業して魔法使いになった人たちのほとんどが、魔法使いとは名ばかりで、ろくに魔法を使えず、したがって魔物とまともに戦う力など持っていなかったのです。  王様がどうしてよいか分からず頭を抱えた、まさにその時、辺境の砦の一つが魔物に攻め落とされ、魔物の大群が都になだれ込んできました。  都中の魔法使いが出撃させられましたが、魔物と戦えるだけの魔法レベルの魔法使いは一割ほどでしかなく、炎や氷や聖なる光も、レベル28の魔法使いの攻撃では、魔物たちは蚊に刺されたほどにも感じません。  魔法使い軍団はじりじりと退却を繰り返し、ついに王宮が魔物たちの包囲されました。王様とお妃様が王国の滅亡を覚悟しかけた時です。  町のパン屋や鍛冶屋や市場の荷物運びなどをしている男たちが、こん棒や鍬や農作業用のフォークなどを手にして、果敢に魔物たちに戦いを挑み始めました。  驚いた事に、魔物たちは戦いには素人のはずの町の平民たち、特に若者たちの力任せの攻撃に次々と倒されていったのです。あまりにも長い間、魔法で戦う事に慣れきってしまって、魔物たちは体を使っての戦いでは昔よりずっと弱くなっていたのです。  こうして魔物たちは、魔法使いではない平民の男たち、なかには勇敢な女たちも混じっていましたが、その猛攻を受けて辺境の砦まで押し戻され、そこへ他の砦から応援に駆けつけた王立学院出身の魔法使いから追撃を受け、王国の人間の領域からついに追い出されました。  平和が戻った都では、王様が問題のあった九十二の民営の魔法学院の閉鎖を命じました。またレベル70に満たない魔法使いはみんなクビになりました。  その問題のあった民営の魔法学院の学長たちを取り調べたところ、そのいいかげんなやり方を指導と言うか、入れ知恵していたのは、最初に魔法学院の設立を王様に提案した、初代の中で一番位の低い魔法使いだった事が分かりました。  その位の低い魔法使いは、形だけの魔法学院の経営を教え込んで、学長たちから莫大なお金を相談料として受け取っていたのです。王様はその魔法使いを国外追放としました。  魔法使いとしての仕事を失った、元魔法使いの若者たちは、かつて自分たちが散々馬鹿にして見下していた、市場や農場や職人の店で働く若者たちの弟子になって、それぞれの職場で今度こそ使い物になるように、きびしくしごかれる事になったそうです。
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