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SDGs@異世界
最近よく見聞きする「SDGs」というのをご存じでしょうか?
Sustainable Development Goals の略で、日本語では「持続可能な開発目標」と言います。
農業、鉱山、その他さまざまな資源や土地の開発は、枯渇しないように慎重にやりましょうね、というお話です。それはファンタジーの世界でも同じでして。
そう遠くない昔のお話です。
とある巨大な島に、平和ではありますが特にこれといった特徴のない王国がありました。
それなりに長い歴史があり、気候もほどほどで、豊かではないが貧しくもない、平凡な王国です。
ある年に、海の向こうから魔法使いでもある賢者様がその王国においでになりました。世界中のたくさんの国を旅しているところで、たまたまその王国に向かう商船に乗って来られたのです。
港町でその王国の民の相談に乗ってあげたところ、大変役に立って皆が助かり、その評判は王都の国王様の耳にも届きました。
国王様は使いを出して、賢者様を王宮にお招きになり、その王国の統治についていろいろためになる話を聞きました。
賢者様は毎日行き届いたもてなしを受け、一か月お城に滞在なさいました。
その間、国王様は賢者様に、最近開発が始まった炭鉱を見ていただくよう頼みました。
「我が国にはこれといった資源もなく、他の国に売る物もない。近くの大国で新しい燃料として注目されているという石炭なる物が、我が国にもあるのではないかと思って鉱山を掘らせてみたのだが」
その国王様の言葉に、賢者様はただちにお引き受けになりました。
「手厚いおもてなしをいただいている恩返しにちょうど良い事でございます」
国王様と一緒にその鉱山へ出かけた賢者様は、掘り出された岩のかけらの中にちらりと姿を見せている、その輝きを見逃しませんでした。
「国王様、これはオリハルコンではありませんか」
「何と! そのような物が我が国の地下にあったのか」
オリハルコンとは、遠い昔突然海に沈んだという伝説のアトランティス大陸で使われていたという、奇跡の金属です。
どのような金属で何の役に立っていたのかは分かりませんが、とにかくすごい金属であった事だけは伝説として伝わっています。
賢者様でさえその使い方は知りませんでしたが、掘り出した原石からオリハルコンを精製する方法は教えてあげる事ができました。
オリハルコン鉱山の仕事が軌道に乗ったのを見届けると、賢者様は次の目的地へまた旅立って行かれました。
国王様は再び王国に来る事があったら、必ず会いに来るようにと言って、賢者様を見送られました。
国王様は国中の魔法使い、錬金術師、学者を集めて、オリハルコンの使い道を調べさせました。
すると段々と驚くべき事が分かってきました。オリハルコンは次のような奇跡的な作用を持っていたのです。
大ウミヘビの毒がしみ込んだ布を板の形をしたオリハルコンの上に、偶然放っておいたら、太陽の光を浴びた後その毒がきれいに消えていたのです。
煙突のススで真っ黒に汚れた箒をオリハルコンの上に置き、そこに太陽の光を当てると新品のようにきれいになりました。
どうやらオリハルコンは太陽の光を浴びると、その上に乗っているあらゆる物をきれいにする力があったのです。
国王様はオリハルコンの板を国中の洗濯屋に買わせました。布も毛皮も新品のようにきれいになりました。
その評判を聞きつけて、遠い外国から儀式用の服やドレスを洗濯して欲しいという依頼が王国に来るようになりました。
また、こういう事もありました。ある洗濯屋のおかみさんがうっかり魚をオリハルコンの板の上に置き忘れたまま、旅行に出かけてしまいました。
三日後に戻って来て、おかみさんは驚きました。魚がまったく腐っていなくて、海から釣り上げたばかりのように新鮮なままだったのです。
この話を聞いた学者たちが、他のいろいろな者で試してみました。すると、野菜、果物、肉、花なども、オリハルコンの上に置いておくと、普通の十倍の期間長持ちする事が分かりました。
また、こんな事もありました。馬車引きの親方が病気で具合の悪くなった馬を小屋で休ませました。その時たまたま積み荷のオリハルコンの大きな板を側に置きっぱなしにしました。
翌朝親方が様子を見に行くと、なんと今にも死にそうだった馬が、元気になっていたのです。
これを聞いた医学の学者が試しに病人を大きなオリハルコンの板の上に寝かせました。普通なら治るとしても何か月もかかる病気を患っていたその病人がなんとわずか七日ですっかり元気になったのです。
死体で試してみましたが、さすがに生き返って起き上がったりはしませんでした。もしそうなっていたら、このお話は別のジャンルの作品になってしまいますし。
オリハルコンは死んだ生き物を生き返らせたり、既に腐った食べ物を元に戻す事まではできませんが、生命力を回復させる効果はある事が分かりました。
国王様は板状だけでなく、蓋つきの箱のオリハルコンも作らせてみました。その箱の中に入れておくと、水がいつまで経っても腐らない事も分かりました。
さらに冬の間に取っておいた氷をオリハルコンでできた箱に入れ、そのまま夏まで忘れて放っておいた酒場の主人がいました。
その箱の中では、氷が解けずにそのまま残っていました。これ以来、王国の民は夏の暑い盛りでも冷たい氷を好きなだけ使う事ができるようになりました。
さらに、オリハルコンはあの鉱山だけでなく、その王国のどこの地下にも大量に埋まっている事も分かりました。
周りのたくさんの国から、オリハルコンを売って欲しいという王侯貴族からの依頼が殺到しました。
国王様は王国の至る所に新しく鉱山を作り、ドワーフ族や飼いならされたドラゴンまで投入してオリハルコンを掘り出させました。
オリハルコンの輸出で王国は大変お金持ちになり、国王様や貴族だけでなく、田舎の民までがとても豊かになり、周りの外国から羨まれるほどの繁栄と栄華を得ました。
十年経った時、あの賢者様がまた王国を訪ねて来られました。国王様は賢者様を立派に立て直されたお城に招き、前回以上に手厚いおもてなしをしました。
「我が王国の今の繁栄があるのも、そなたのおかげである。国賓として、好きなだけ滞在して下され」
賢者様は最初は喜んでいらっしゃいましたが、数日後心配そうな表情になって国王様にこうおっしゃいました。
「国王様、これまでのオリハルコンの産出の記録を全て見たいのですが」
国王様は、不思議な事を言うものだ、と思いながらも、大臣たちに全ての記録をお見せするよう命じました。
それから丸二日、部屋で記録を調べていた賢者様が、大慌てで国王様に謁見を願い出ました。
「国王様、ただちにオリハルコンの採掘を中止させて下さい!」
理由を尋ねる国王様に賢者様は真っ青な顔で、魔法で島の地下の地図を床の上に浮かび上がらせました。
今で言う三次元映像のような地図で、本当に地下の様子を見ているようでした。王国がその上にある、さしもの大きな島も、十年にわたって大量のオリハルコンを掘り出し続けてきたため、モグラや野ネズミの巣のように、穴だらけになっていました。
いわば、スカスカのスポンジのようになった地下の上に、その大きな島が乗っているのです。
そして賢者様は言いました。
「そろそろ限界に近づいております。もし、この無数の立て穴の間に柱のようになっている岩盤が一本で折れたら」
国王様の顔も真っ青になりました。
「我が国は島国。アトランティス大陸が一夜にして海に沈んだ原因は、もしや……」
ちょうどその時、鉱山大臣が使っている伝令用のオウムがその部屋へ飛び込んで来ました。
「緊急、緊急。鉱山の奥で穴を掘っているドラゴン二匹が、崩れた岩をはさんで鉢合わせしました」
こうしてまた一つ、大きな陸地が一夜にして海の中に沈んでしまいました。
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