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ここ数日、宇田川に会わない日が続いている。が、やつのうわさだけは光より早く伝わってきた。
「モトカノとデートしてもう一度改めてふられたらしい」
「めっちゃキレイにビンタされてたって」
「マジか、すごい修羅場じゃん」
「前の前の彼女にしつこくつきまとってるって聞いたけど」
「最寄り駅で待ち伏せしてたらしい」
「うわ、必死すぎ」
「クリスマスとはかくも人を変えてしまうものなのか」
想像がつかなすぎて怖い。
俺はこの世界を元通りにしたつもりでいたけど、完全に戻ってはいないのかもしれない。以前とよく似ているけどちょっと違う、みたいな。
そういえば確かに、スマホでのやり取りは残ってなかったけど、女物の衣服だけは俺の部屋にしっかり残ってるんだよな。UFOキャッチャーで取ってもらったあの景品も。キーホルダーはリュックに付けたままだけど、衣服はどうすればいいのかわからなくて部屋の隅に積んである。
あんまり考えすぎると眠れなくなりそうだからこの辺にしとこう。俺は男としての人生を全うしていくつもりだし、アイツはアイツの道を行く。それだけだ。その道が周囲からどんなにへんてこに見えても、何も言う資格はない。
一つ良かったのは、分かりやすいストーリーの映画しか見てなかった俺が、ちょっと難しそうな映画に興味を持ち始めたってことだ。あの日々は、クリスマスのイルミネーションに彩られて、静かに思い出になっていく。幾つかの痕跡だけをわずかに残して。
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