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『今、どこ?』
イブの夜。俺は、だらだらとパソコンで動画を見ながら缶チューハイを空けていた。本当はアルバイトの予定だったのだが、直前までウキウキでデートプランを練っていたやつにある重大な事態が発生し、このまま家にいると発狂しそうだからどうしても仕事をさせてほしいと懇願されてシフトを交換したのだ。わかるわかる、一人でいるといろいろ考えこんじゃうよな。この間見た映画の監督のインタビューやら撮影裏話を読んだりしていた、その時だった。スマホがメッセージを受信した。少し前まで四六時中連絡を取っていた、クリスマス中止が撤回されてからはまったく見ることがなくなっていた名前。名前を見ただけでこんなに心拍数が上がるとは思わなかった。呼吸を整えながら短く返信する。
『家にいるけど』
『ちょっと、上がってもいい?』
『散らかってるし片付ける気もないけどそれでも良ければ』
『知ってる。問題ない』
LINEの返信をしてスマホをおいた瞬間、ドアチャイムが鳴った。いやいくらなんでも早すぎだろ。まるでずっとそこにスタンバイしてたみたいじゃん。
果たしてドアを開けるとそこには確かに宇田川がいた。
「……うわ」
はっきり言おう。こんなにかっこ悪い宇田川は見たことない。目に生気がないし髪はぼさぼさ、コートにはなんか泥とか葉っぱがついている。目の下にクマもできてるし、疲れ切ったオーラがにじみ出ている。それに、ちょっと薄着だったのか小刻みにぶるぶる震えている。
「どうしたのよそれ」
「さっき、ちょっところんだ」
「さすがに言い訳として厳しいからな。とにかく入れよ。そういえば……」
「なに?」
「いや、今日も寒かったよな。さすが鍋が美味しい季節だわ」
今日は前の前の前の彼女とデートするんじゃなかったのか。とかぶしつけに聞いてみたいけど良いのかな。こいつの考えてることがさっぱりわからない。いつもなら息をするように言葉が出てくるんだけど、なんか今日は調子悪い。
汚れたコートを脱がして部屋に上がってもらう。床に散らばった雑多なものたちを適当に端によける。どうにか二人分の空間を確保した。1DKのささやかな住まいなので、ソファはなくベッドに寄りかかって座るスタイルだ。
「俺はどうすればいい?」
「適当に座ってよ。もしかしてソファがなくて戸惑ってる? 床に座ってくれ、悪いけど」
「……わかった」
まだ目が虚ろだ。
「なんか飲む? スポドリ……はちょっと違うか。あったかいお茶とかどう?」
「お茶……」
「あ、もっと違うやつが良かった? カフェオレもできるよ、粉を溶かして作るやつね。どれがいい?」
「淹れてくれるなら、何でも」
何でもいい、が一番困るんだよな。まあ、元気がないやつを責めても仕方がない。いつもの調子で突っ込んだらそのまま粉々に砕けそうな雰囲気だからな。
ほんの数日見なかっただけだったのに、別人かと思うほどやつれてる。疲れ切っている。
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