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(6)
「俺には、彼女がいたんだ」
長い沈黙の後、口を開いたと思えばモテ自慢かよ。
「……知ってますけどそれがなにか」
「違う、そうじゃなくて……」
つまり、とかでも、とか、言いかけてはやめる。考えがまとまらないまま話し出すのも珍しいな。
「都合のいい夢でも見たのかもしれない。……いや、でも」
どんどん独り言みたいになっていって、とうとう宇田川は口をつぐんだ。何か考え込んでいるようだ。あまり次の言葉をせかすのも良くないな。こういうときの間の持たせ方って難しい。カフェオレ持ってきててよかった。これをゆっくり飲んでおくと良い感じに時間がたつ。まだちょっと熱いし湯気でも見て心を無にしておこう。
「……なあ、園田」
名前を呼ばれて顔をあげたら、宇田川がまっすぐに俺を見ていた。
「今から、俺はすごく変なことを言うと思う。とりあえず最後まで聞いてほしい」
「はあ、うん」
「数週間前に、良いなって思える子ができたんだ。でも、ある朝起きたら、いなくなってた。いなくなったというより、もともといなかったみたいで、誰に聞いても何も覚えてないし、俺自身も段々不安になるくらいだった。だから、ゼミが忙しすぎて幻覚でも見たのかもしれない、そう思って俺は元カノと連絡を取った」
「いやなんでだよ」
「でも、あの子じゃなかった。チカもユリもカナミもみんな違った」
「……うん」
「それで、いろいろ考えた。俺が一緒にいたいと思った子、ずっとそばにいたいって思えた子。一緒に映画に付き合ってくれて、青いオーバーオールを着た黄色いキャラクターが好きな子。……そうやって考えれば考えるほどおかしな結論にたどり着くんだ」
宇田川は大きく息を吐いた。
「お前以外考えられない。なあ、ツカサ」
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