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(さいあいなるみさこへ
いまのせいかつをぞんぶんにじぶんらしくたのしみなさい)
・・・って書いてあったの」
(なんだいそりゃ。随分と変な手紙だね。この子の親か・・それとも身内の誰か・・か)
「でもね、その手紙先生に取り上げられちゃったの」
「どうして?」
「分からない。返してくれないの。きっと、あの手紙だけじゃなくて他にも来てたんだと思う。先生がみんな取っちゃうんだよ。あの時読めたのは、手紙が下の方に入ってたから先生が気が付かなかったんだ」
「もしそうなら困るねぇ」
「うん・・他のお手紙も読みたいけど、先生怖いから」
「う~ん。まるで「あしながおじさん」のお話みたいだね」
「なぁにそれ?」
「知らないのかい?そうかい・・人に聞くより自分で調べた方がいいね。学校に図書室があるだろ?」
「うん」
「そこで探して読んでごらん」
「分かった」
これが、勅使河原美佐子との最初の会話だった。
それから毎日のように美佐子とベンチに座り話すようになったのだが、相変わらず美佐子の後ろには翁の面が憑いている。気にはなったが、日引に害を加えようとしたり動き出す気配はないので、しばらく様子を見る事にした。美佐子は初めて会った時よりも表情が明るくなり学校で会った事や仲間の樹であった事等を話すようになった。
日引は殆ど聞き役なのだが、美佐子の表情が明るくなったことにホッとし退屈な話でも「うん。うん」と根気強く聞く。
月日が流れ、美佐子と知り合ってから半年が経とうとした頃。
日引はいつものように夕方の散歩の帰り道公園へと寄った。しかし今日は美佐子の姿がない。
いつもなら一人ブランコに乗り、日引の姿が見えるとブランコから降り側に走り寄って来ると、日引の手を引きベンチへと連れて行くのだ。
「おや、今日はいないようだね」
いつもいる人が急にいないと気になるものだ。
日引は公園に入りベンチに座ると、美佐子が来るのを待つことにした。
すると突然、ジャリン!と大きな音をたててブランコの鎖が片方落ちた。
この公園の遊具は錆つき古い物だが、点検は必ず行っているはず。少しでも危険な箇所があれば使用禁止となる。しかし、そんな張り紙もなく昨日まで美佐子はそのブランコに乗っていた。
それに誰も乗っていないのに鎖が落ちるなんて事あり得るのだろうか。
日引は立ち上がり、片方の鎖だけでぶら下がったブランコの近くに行くと、外れた部分を手に取り見て見た。すると、太く丸い鉄の接合部がぐにゃりと曲がっている。これだけ曲げるには、高温で熱しない限りここまで曲がる事はない。
「こりゃ何かあったのかな・・」
嫌な予感がした。
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