嫌がらせ

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温かい太陽の光が届いている場所に、日引の家に住んでいる猫のみぃが手足を伸ばしだらしない恰好で気持ちよさそうに寝ている。 ゴクリと唾をのみ込んだ水島は 「成る程。その翁の面は美佐子さんの感情を表しているって事なんですね?」 と言った。 「恐らくね」 「でも、なんでそんな翁の面が美佐子さんに憑いてたんですか?」 「詳しい事は分からないが、恐らく美佐子のご先祖に関係がありそうなんだ」 「ご先祖?」 「ふん。あの時は、ただ美佐子の感情を翁が映し出しているだけで特に悪さもしなさそうだからほっといたんだが、その後に起こってしまったんだよ」 「何が起きたんです?」 「翁が暴走したのさ」 「暴走⁉」 「美佐子は、施設内でいじめにあっていた。恐らく、自分には来ないプレゼントを毎月貰っている美佐子を妬んだことから始まったんだね。ソレがエスカレートしちまった」 「どんな風にですか?」 「さっき、建物の裏に二つの物置小屋があるって言っただろ?」 「はい」 「その内の鍵がかかった方に美佐子を閉じ込めてしまったのさ」 「酷い・・」 水島は顔を曇らせた。 「ふん。お陰で美佐子は三日間、飲まず食わずで物置の中に閉じ込められていた」 「三日間⁉どうやって分かったんですか?」 「後藤って子が私のアパートに助けを求めて来たんだよ。「みさちゃんが大変だ!」ってね」 「後藤・・美佐子さんが好きだって言っていた子ですね?」 「そう。林の中に自分の物を捨てられてしまった翌日、美佐子は公園に後藤を連れてきた。私に紹介したかったんだね。とても賢そうな男の子ではにかみ屋のいい少年だった。とても二人は仲が良くてね。公園から帰る時も手を繋ぎながら帰るんだ。そんな姿を見て安心しちまったのがよくなかったんだ」 日引は小さくため息を漏らすとお茶を一口飲んだ。 「でも、学校や施設の職員が騒がなかったんですか?三日もいなければ大騒ぎになるのは当然だと思いますけど」 「それがならなかったんだよ。施設側は美佐子がいじめにあっている事を知っていた。勿論姿が見えなくなったこともね。それを警察や学校に知らせる事をせず自分達で何とかしようとしたんだろう」 「公になるのを恐れたんでしょうか」 「多分ね」 日引の眉間の皺が深くなった。 「美佐子さんが物置の中に閉じ込められているって何故分かったんですか?」 「後藤は、美佐子が他の子供達に無理矢理物置に入れられている所を見たらしい。止めに入ろうと駆け付けたらしいが、あの物置には南京錠がかけられている。その鍵を閉じ込めた奴が持って行っちまったんだ。先生に言うも何もしてくれず、挙句後藤は部屋から出る事を禁じられたらしい」 「そんな・・もしかして美佐子さんの事が外に漏れるのを防ぐために?」 日引は静かに頷く。 「あの時、後藤が私のアパートに駆け込んできた時はもう遅い時間だった。確か八時をまわっていたかねぇ。先生たちの目を盗んで施設から飛び出してきたそうだ。裸足でね」 またお茶を飲む。普段よりお茶を飲むスピードが速い事に気が付いた水島は、この出来事が日引にとってとても嫌な出来事だったんだと分かった。 「私は後藤と一緒に仲間の樹へと走った。後藤は、小さい手で私の手を引き必死になって連れて行く。向かっているその方向の空がやけに明るいのが分かった」 「まさか・・」 「・・・・」 益々、眉間の皺を深くさせながら日引は話し始めた。
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