笑顔だけは得意だから

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 剥がれていく。  ぽろぽろ、ぽろぽろと、必死で繋ぎ合わせた歪な仮面が、剥がれていく。  自分のことを話すのが苦手だった。自分のテリトリーに人を入れたくなかったから。  パーソナルスペースってやつが人よりかなり広いらしい。  自分のことが嫌いだった。誰よりも憎くて、穢らわしい。  大好きな人達が大嫌いな自分と一緒にいることが、耐えがたい苦しみだった。  だから、せめてマシに思えるように。  大好きな人達に、少しでも迷惑をかけないように。  嘘だらけの仮面で覆い尽くすしかなかった。  でも、嘘も満足に吐き続けられない欠陥品だから。  剥がれ落ちた仮面はもう戻せなくて、大嫌いな自分が露わになってしまうことが耐えられなくて。  いなくならなければ、と。消えなければ、と思う。  いなくなりたい、と。消えたい、と願う。  そんなことを考えてるなんて知ったら、みんなは心を痛めるだろうか?  そんな価値なんてないけれど、優しい人達だからきっと涙を流すんだろう。  それは、本意じゃない。  できることなら。個人ではどうしようもない事件や事故にでも遭えれば。  それまでは、この仮面を。  ぼろぼろ剥がれ落ちていくこの仮面を纏って。  不恰好でも、汚くても、そこに嘘しかないとしても。  一番見られたくないところだけは、誰にも見られないように。
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