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熊沢さんと香帆の琴線
「ねぇ。本当にカジュアルな格好でいいの?」
白と青のボーダー色で、緩めなスタンドカラーシャツワンピース姿。
「大丈夫。大丈夫。香帆のよく知ってる人だから。」
「本当に?失礼ないかなぁ。」
「大丈夫だって。18時に約束したからそろそろ来る頃かな?」
ピンポーン!
玄関のチャイムが鳴る。
ガチャッ。
玄関の扉を開ける。
「どうもーこんばんは!」
熊沢さんが挨拶をしながら大きな体を屈め、芽里ちゃんの背中を支えながら玄関に入ってきた。
「あーー熊沢さん!芽里ちゃんもこんばんはー。」
「遅くにすみませんー。びっくりしましたか?ご主人と長峰さんとリカちゃんを驚かせようと言うことで勝手にお邪魔してしまいました。」
「いえいえ。びっくりしましたけど。私もリカも嬉しいですよ。」
「今日はお庭でBBQしよっか!……そうそう。お肉とかお野菜を焼くの。」
前へ屈み芽里ちゃんに話しかける香帆。
熊沢さんの視線が泳ぐのを僕は見逃さなかった。
胸元が空いた緩めのシャツワンピースのため、水色のブラに包まれた乳房が熊沢さんの目に飛び込んでいるはずだ。
「良いですね!楽しそうです。」
目は下の方を向いている。
この香帆の【緩さ】に若い頃はヤキモキさせられたが、寝取られ性癖のある現在では、良い興奮材料となっている。
「芽里ちゃん。嫌いな食べ物とかないかな?………えっ。リカにお土産?ありがとー………………そうなんだ。………………リカは今2階で遊んでるよ!2階に行って驚かせてきて!」
芽里ちゃんと話している間は、ずっと僕と熊沢さんのサービスタイムだった。
子供達と熊沢さんが庭でくつろいでもらい、キッチンで食材の準備をしている時、
「ちょっと。どういうつもり?」
香帆が話しかけてきた。
「えっ?リカの親友なんだろ?熊沢さんも良い人だって言ってたから。2人とも喜ぶかなと思って。」
真顔でシラを切った。
「そうなの?ふふ。気が効くね!」
気づいているのかいないのか……。
そんなことはどうでも良かった。
まずは子供達が大喜びだったこと、そして香帆も熊沢さん楽しそうだった。
BBQ中は熊沢さんを挟み両側に僕らが座った。
椅子が低いため、ワンピースのスリットから妻の白く艶のある太腿が見え隠れしていた。
そのたびに熊沢さんの視線がやんわりと時に鋭く香帆の太腿に刺さる。
そして驚いたのが香帆の熊沢さんとの距離感だった。
本人は気づいていないかもしれないが、気に入ったタイプの男性には本能的にぐっと距離感を近づける節がある。
それを見ていつも、「あぁ。この人タイプなんだな。」と嫉妬と下腹部の疼きを楽しんでいた。
しかし熊沢さんは香帆のタイプと全く真逆。
その彼に対して、距離を詰めたことに僕は驚いた。
取り分けたり、ビールのお代わりを持っていく時など、通常時より10cmは距離が近い。
勢いよく振り向けば髪が顔に当たるほどの距離感。
熊沢さんの何かが香帆を惹きつけていた。
BBQが終わり
その日は香帆がリカと芽里ちゃんをお風呂に入れその間、男2人は後片付けをした。
遠慮し帰ろうとする熊沢さんを香帆が、
「あんなに楽しそうなのに芽里ちゃんに帰ると切り出せますか?うちは構いませんから。遊ばせてあげましょう。」
と制止した。
芽里ちゃんとリカは深夜まで部屋中を遊び回り、23時頃にようやく寝ついた。
そのあと香帆も合流し、春の夜風が気持ちいい庭で大人3人で飲みながら色々な話をした。
熊沢さんは娘さんが生まれてすぐ奥さんを亡くされ男手一つで子育てをしてきたこと。
仕事も激務で家に帰っても平日は家事をするだけで精一杯でなかなか子供と遊んであげられないこと。
東京から転勤で移ってきて身寄りがいないこと。
支店長として転勤してきたが年上の部下ばかりで社内で孤立していること。
そのため思ったような業績を上げられないでいること。
翌年には転勤が決まっているが、おそらく出世コースからは外れていること。
………………。
香帆は熊沢さんの横顔をなんとも言えない表情で見つめ続けていた。
「子供ってあんな笑うんですね。
両親のいる東京から引っ越して来てから、芽里のあんな楽しそうな表情とはしゃぎっぷりは初めて見ましたよ。
どこまでやれるかわかりませんが、親として今よりも少し子供と向き合える時間を作っていこうと思いました。」
すると香帆が口を開いた。
「週末はうちに遊びに来て下さいよ。そうしたら芽里ちゃんも喜ぶし、熊沢さんも息抜きになるんじゃないですか?ねぇ亮くん。」
香帆からの提案に驚いた。
熊沢さんの何かが妻の琴線に触れたみたいだ。
「そうだね。いいと思うよ。どうですか?熊沢さん。」
「いやいやいやいや!それは申し訳ないです。」
と何度も遠慮し断わり続ける熊沢さんに香帆が寂しそうな表情で問いかけた。
「あのぉ…ご迷惑でしたか?」
「いえ!そんなことは絶対にありません!有難い話だしこんな嬉しい提案はないと思ってます。本心で。
でも長峰さんのところのプライベ……。」
と言いかけた熊沢さんの言葉に香帆が被せた。
「熊沢さん。心の豊かさがなければ、芽里ちゃんと向き合うことも会社で活躍することも難しいと思いますよ。
ご両親や友人のいる東京と違い、身寄りのない地で仕事と子育てに追われ心の豊かさを失っていたんじゃないですか?」
熊沢さんは上を向き黙ってしまった。
僕らは熊沢さんの目から頬に、静かに伝う光るものを見た。
熊沢さんは気の抜けたビールを一飲みした。
そして静かだがはっきりとした声で「お言葉に甘えさせて頂きます」と言った。
その日以降熊沢さんは週末我が家に遊びに来ることになった。
2日は子供も合わせて両家族で遊んだ。
もう2日は子供達を妻の両親の家に泊らせる日にし、芽里ちゃんも一緒に預けて僕らが夫妻と熊沢さんの大人だけで遊びに出掛けた。
元々世話好きの妻の両親へは妻が事情を話すと、1人増えるくらい何ともないと快諾してくれた。
律儀な熊沢さんは、これだけは譲れないといい、毎回妻の家への差し入れと2日間にかかる食費は今後全て払ってくれることになった。
「時間と心の余裕はないですけど、お金だけはありますから。」
と笑う熊沢さんだった。
熊沢さんの人柄もあり遊園地や水族館に遊びにいったり、ときには旅行にも行くほど親密になった僕ら。
香帆は熊沢さんのどこを気に入ったのか、距離はどんどん近づいていった。
3人で遊ぶときは熊沢さんが旦那かと周りが勘違いするほど横にいることが多くなった。
そして熊沢さんも満更でもなさそうだ。
熊沢さんは香帆さんと呼び、僕らは熊さんと呼ぶようになった。
香帆独特の《緩さ》によって熊沢さんの視線が泳ぐことは良くあるものの、僕の性癖が発動しない平和な日々が続いた。
そんな日々に楔を打ち込んだのは、お風呂上がりにみんなでリビングで談笑していたときに熊沢さんの娘の芽里ちゃんが発した一言だった。
「ねぇパパー。」
「ん?どうした芽里。」
大きく屈み芽里ちゃんに耳を傾ける熊沢さん。
「なんでリカちゃんのママは、パパより小さいのにおっぱいは大きいの?」
「芽里!」
「それにね、凄く柔らかいの。」
酔っ払った顔をさらに紅潮させる熊沢さん。
さらに、
「あとね!おちんちんのお毛毛も無いの!なんで?」
さらに紅潮する熊沢さんと手を両頬から離すことが出来ない香帆。
香帆は焦りしどろもどろになりながら、いつもより早いにも関わらず子供達を集め寝かしつけに寝室へ行った。
男2人だけ残ったリビング………………。
熊沢さんが最初に切り出した。
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