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フィルムで撮ったフランス映画のようでもあり、下手なフラッシュを焚いてしまったインスタントカメラで写したようでもある情景。蝋燭と暖炉の光だけでまかなわれた空間。小さなログハウスで少女は一人、天命が尽きるのを待っていた。冷蔵庫もない。キッチンもない。まるでいつの時代か判らない。毎晩毎晩一人で、夜が明けるのを待っていたのだ。
ある日の真夜中に、少女は星を眺めようと思い外に出た。眠れなかったのだ。山奥に住んでいるので、開けた場所では星空は特に綺麗に見える。少女は小さな、肌色のイモムシみたいな指で、天井の闇に開いた穴を上手いこと繋いでいく。貝殻を書いた後は子猫を書いた。その後に、大きくブリキのロボットを書いた。空のキャンバスはすぐに埋まってしまうが、消しては描いて、描いては消した。十分に楽しんでいたが、真夜中のキャンバスはやはり霞んで見えた。原因は目の前を見れば明白だった。山から離れた平地の方には、ケバケバしい光が淫らに咲いていた。キャンバスが霞むわけである。少女は悲しくなって、涙を流した。甘い甘い、ホットミルクのような涙だ。
ログハウスに戻り、蝋燭に自然な光を灯すと、大きな木のテーブルに手紙と貝殻が置いてあった。
――メリィクリスマス――
殴り書かれたメモ用紙を留めるようにして、貝殻が左上に置かれてあった。凹凸がなくのっぺりとした表面に、今にも噛みつきそうな大きな口と小さな歯が裏面にぎっしり詰まっている。カモンダカラ。思っていたのと違っていたが、少女はそれを優しく包み込み、真珠のように扱った。月が存在感を増したので、窓から外を見ると、そこには黒いひげのサンタがいそいそと走り去っていた。「パパ?」と少女は呟いた。もう一度、貝殻を抱きしめた。
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