メリィクリスマス

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 目を覚ますと、大きな速度のある機械に揺られていた。頭がぼんやりしている。女は頑丈なロープで手足を縛られガムテープで口を封じられ、その上で空気孔のある大きな土嚢袋のような物の中に入れられており、全く身動きが取れなかった。現実を諦めて、猫との幸せな生活を思い出すために寝ようとした。すると機械は停まり、何かが重たく開く音がして、男にお姫様のように抱きかかえられ、されるがままに連れて行かれた。  大きな袋から出されると、すぐに両手を天井に吊された。薄汚い地下室。工具や何かが詰まっている大量の土嚢袋、中心に拘束具付きの冷たい鉄の大きなテーブルがあった。足のロープと口のガムテープは外されたが、丁度爪先がギリギリで着くぐらいの、絶妙な案配で吊されていたので、抵抗することはできなかった。そもそも、身体の何処にも力が入らなかった。目の前には薄汚い黒ひげの大男。黒い皮のエプロンをしている。遠目で見たら熊みたいだ。女は必死に叫ぼうとしたが、声を出すことができなかったし、出すべき言葉を知らなかった。 「随分と美しく育ったね、お嬢ちゃん。母親にそっくりだ」  そう言いながら、男はギリシアの彫刻のように美しい女の裸体を、舐め回すように凝視した。満足すると、急に背後に回られ、瞬く間にばっさりと髪を切られた。自慢の尻尾が千切られてしまった。それが終わると、今度は青色の蛇のようのなホースからかなりの圧力で冷水を出し始め、「だがなお嬢ちゃん、臭っちゃいけねぇ」と言い放つと、女に向けて容赦なく噴射した。抵抗することもできずに、木から落ちた打撲のような痛みを耐え続けた。特に集中的に下半身を狙うので、顔を狙われるよりはいいが、気分が悪くなった。  クルクルと一周させられた後、やっと放水は止み、大男はさっそく自身の服を脱ぎだした。マナティみたいな顔をした、人間にしては醜い大男の身体は、マナティそっくりだった。女がいつか見た記憶のある、海洋生物の種類のひとつだ。陸地の生物と、余りにも乖離したその醜態に、女は笑いそうになった。 「お嬢ちゃんお嬢ちゃん、ニヤニヤしちゃいけねぇ。黙って俺の言うとおりにしないと、命は無いからな。まぁ、言っても無駄か」  ブヨブヨの大男は目の前に添うようにして立つと、女の身体中を弄り始めた。虚しく、抵抗もできなかった。満足すると次のフェーズに移る。後ろから、今まで経験したことのない器官に男が入って来た。痛みだけが稲妻のように爪先から旋毛まで貫通し、すでに戦意を抜き取られてしまうほどであった。しばらく腰を振っていた男は急に満足した様子で、女の中から出て行った。女は泣きながら血を流していた。泣き崩れたかったが、未だ宙づりなので、崩れることはできない。  男は服を着て、黒い皮のエプロンで仕上げると、沢山の光が漏れているどこかへと、階段で上っていった。しばらくして光の方から下りてくると、今まで見たこともないご馳走を持って来ていた。どんな生き物のものかは判らないが、大きな分厚い肉だ。 「お嬢ちゃん、喉に詰まらせちゃいけないからね、ゆっくり噛んで食べるんだよ」そう言って、男はありとあらゆる食べ物を女に与え、十分な飲み物を与えた。そして時間が経つと、また女を乱暴に犯し、満足した。  そのサイクルが一週間程続いた。  地下室を出るとき、女は両手足を解放され男の後にしっかり付いて歩いていた。白を基調とした、大きくて豪奢な家の中を通って外に出た。途中のリビングで、記憶の中にあるたった二人の男女と黒髭の目の前にいる大男が一緒に映っている写真があった。女は言葉を思い出した。 「うそつき」  たったそれだけの言葉で、あの写真の男女は離ればなれになったのだ。何故かその事実だけは、胸の奥底、横隔膜に刻まれている。  男は女をログハウスまで連れて行った。手足は自由だったが、後部座席で、黒い布を被せられ寝かされていた。男は満面の笑顔で、「また迎えに来るから、元気にしておくんだよ、お嬢ちゃん。変な気は起こさないようにね」と言い残して帰って行った。
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