ポケットの金貨

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 少年が『ワルチングマチルダ』を弾き始めると、店中の荒くれ男どもが濁声(だみごえ)を張り上げて合唱した。女はスカートを持ち上げて、ガーターベルトが見えそうなくらい太ももをあらわに踊った。口笛でアコーディオンなんか聞こえなかった。  曲が終わると、女は少年の帽子を取り上げて、テーブルを回った。 「ほら、あの子が一生懸命弾いてくれたんだ!ケチケチしないで小銭を入れな!」 「キスしてくれたら、1ギニーだって入れてやるぜ!」 「ほざいてな!」  女は店のテーブルをひと回りすると、少年のところに戻って来た。 「ほら、お金の音、聞こえる?」  女は少年の耳元で帽子を揺すった。小銭がジャラジャラと音をたてた。女は帽子をテーブルに乗せると、少年の手を取ってどこにあるかわかるように触らせた。 「ここに置いとくからね」 「ありがとう」 「どういたしまして!」
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