#1 闇に嗤う獣

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 豊亜工業(ほうあこうぎょう)(モデル)300。  1メートル未満の短い銃身は取り回しが良く、国内外で高い評価を受けている。だが、その携帯性から犯罪目的での使用が後をたたず、前世紀の末、一旦は生産終了となった。  それから10年近くを経た今世紀の始め頃、虚穴の出現や侵獣を含む侵略的来訪種による被害が各地で増大すると、その使い勝手の良さから再生産を望む声が上がった。現在ではごく少数、ほぼ受注生産に近い形ながら製作が再開されており、パーツの交換に困ることは無い。  およそ半世紀にわたり使い込まれ、よく手入れされた木製のグリップは、握れば手に吸い付くように馴染んだ。  末期がんで世を去った祖父の魂が、銃を通じて自分と共にある。それは赤尾にとって、ある種の信仰と言えた。  身長162センチ、体重78キロ。  どこもかしこも太短い体格、柴犬に似た顔立ち。尻尾の巻き具合から赤茶の毛並みまで、若い頃の祖父に生き写しだと周りからは言われてきた。  まるきり同じ主に仕えて喜んでいるかのような銃に、声に出さず言葉を掛ける。  ああ。お前こそ本当の相棒だ。あんなモヤシ野郎なんざ知ったことか!  おれと相棒、ひとりと一丁で充分だ。    内心で言い聞かせながら、立ちふさがる灌木をナイフで勢い良く切り捨てた。 2.  事の発端となった言い争いは、実に些細な出来事がきっかけだった。  相棒であり、今は同居人でもある小青田の自堕落な生活ぶりが、どうにも我慢できなくなったのだ。
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