#1 闇に嗤う獣

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 高校卒業後、防衛官として6年の任期を務めた赤尾は、部屋の掃除からスーツのアイロン掛けまで、万事にきっちりしないと気が済まない性分になっていた。  けれどもそれは世間一般の尺度に照らせば、異常の域に届くであろうことは自覚していたので、他人にうるさく言わないよう、極力心がけていた。  だが、同居人となった小青田のだらしなさは、赤尾の許容範囲を易々と突破した。彼に貸した部屋はゴミや脱ぎ捨てた衣類が散乱し、半月と経たないうちに足の踏み場もない状態になった。  せめて食べ終えたカップ麺やスナック菓子の空き容器はゴミ箱に捨て、ペットボトル飲料は飲みかけで放置せず、流し台まで持って行って欲しいと頼むも聞き入れられず──厳密には、言われたときには従うものの、半日も経てば元通りとなった──、徐々にそれは共用スペースにも及ぶようになった。  いい加減な食生活もまた、許しがたい有様だった。  肉も魚も口に入れるだけで吐き気が込み上げてくる、野菜も苦みやくせの強さが気になるから食べられないと、想像を絶する偏食ぶりには閉口するばかりだった。    幼い頃、林間学校で侵獣に遭遇し、級友たちが目の前で貪り食われる中で自分だけが生き残った記憶から、肉も魚も食べられなくなったと聞いたときには心の底から同情した。  それで、少しくらいの好き嫌いは大目に見ようと、赤尾は自分に言い聞かせた。  それはしょうがないとして、野菜すらダメなのはどうしたことか。  そのくせ、肉も魚も食べられないと言いながら、カップ麺やコンソメ味のポテトチップスは旨そうに食べるのは納得できなかった。
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