#1 闇に嗤う獣

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 ジャンクフード好きは赤尾も同じなので、それ自体に物申すつもりはない。集落の老人たちの買い物代行で街を訪れる際に食べるハンバーガーやラーメンは、ちょっとした楽しみだ。  ただ、せっかく夕食を作ったのに、いざ部屋まで呼びに行ったらスナック菓子をポリポリ囓っているところに出くわすと、堪えがたい怒りが込み上げてくる。それが今日で4回目、仏の顔もなんとやら。ついに我慢の限界に達した。    怒りに任せてあれやこれやと言い連ねる赤尾に、小青田は心底から面倒臭そうに言い返した。 『うるさいな、生活費なら多めに払ってるだろ。こういった事も含めた額でだ』  その言葉を聞くや、赤尾は装備一式を引っ掴み、家を飛び出し車へと飛び乗った。そうでもしないと、この痩せた人間種の青年をうっかり殺してしまいかねなかった。  車を走らせても怒りは納まらず、装備を身に付けて山へと分け入った。  時刻は既に夜9時を回っていた。日はすっかり暮れ、辺りは真っ暗だ。  原則として、狩猟で発砲可能な時間帯は日の出から日の入りまでと定められている。  けれども、害獣駆除のための夜間銃猟のライセンスは去年取得した。それ以前、防衛官時代に幾度となく繰り返してきた夜間の演習では、若い頃の祖父がそうしてきたように、音や匂いを頼りに、他の誰よりも巧みに暗闇の中を駆けてきた。    何も恐れるようなことはないし、気が済めばすぐ引き返せば良い。  そう自分に言い聞かせて、気付けば森の奥深くまで踏み入っていた。  その場所は、次元の綻び、あるいはどことも知れぬ異界と繋がる門と言われる虚穴が、発生しては消えを繰り返すポイントだった。
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