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3.
耳鳴りにも似た甲高い音で、赤尾は我に返った。
ほんの微かだが、2時の方角に空気が空間ごと引っ張られる気配。同時に、金属を酸で溶かしたような臭いを鼻に感じた。とても小さいが、どこか近くで虚穴が口を開けているらしい。
冷えて湿った夜の空気は、嗅いだ覚えのない草葉の匂いを帯びている。赤尾の胸中に、心細さが沼の泡のように湧き上がった。
生白くねじくれた枝に赤茶の葉を揺らす木には、釣鐘をいくつも連ねたような青白い花をつけた蔓草が巻き付いている。足元に生えている鋭い棘の草は、墨を塗ったように黒い。
梢の間をふわふわと飛び交う大きな翅の蛾は、気持ちの悪くなるような紫の光を放っている。いずれも、虚穴を通じて迷い出たか、運良く──在来の生物種にとっては運悪く──こちらの世界に定着した種なのだろう。
侵略的来訪種、その群落だ。
在来の生物種を駆逐して、周囲の環境を侵略している真っ最中なのだ。
全身をくまなく覆う赤茶の被毛が、ぞぞっとおぞけ立つ。
虚穴が発生している近くでは、別の虚穴が連鎖的に開くことが多い。
多くは針で開けたように小さい穴だが、ときには人間や更に大きな生き物が易々と通れる大きさのものが現れることもある。
例外は多数知られているものの、一般には、穴の大きさと持続時間は反比例する傾向にある。そして、穴に呑まれたら最後、二度と戻って来れないと言われている。
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