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この侵獣は縄張り意識と闘争本能が強く、集団行動などありえないと言われてきた。しかし近年、狩りのときには他個体と連携する事例が見つかったと、いけ好かないインテリ野郎──もとい、小青田が言っていたのを思い出す。
こんなことならば、もっと話をしっかり聞いておけば良かった。
「るぉぉぉぉう」
醜悪な人面を提げた獣が、不満げに──あるいは脅すように声を上げる。
装弾された5発では、この巨大な獣2頭を同時に仕留めるのは間に合わない。赤尾はぎりっと奥歯を噛み締めた。
「いたい。いたいよぉ。たすけてぇ」
がさがさと茂みを揺らしながら、おとり役を務めていたマンティコアが、嘲るように悠然と歩み寄る。
間に合わねぇや、くそっ!
声に出さぬまま悪態をついた、その時だった。
『こォの馬鹿野郎ぉー!』
突如、斜め上方向から聞こえた声に、場に居る一同はほんの一瞬、気をとられた。
不格好な塊が、4つの回転翼で空中にふわふわと滞空している。農薬散布用の機体を改造した大型のドローンは小青田の声で叫び──搭載されたスピーカーを音割れさせながら、おとり役のマンティコア目がけて機体下部から何かをぼとりと落とした。
それはパチパチと爆ぜながら、目鼻が痛くなるような煙をもうもうと噴き上げる。
感覚の鋭いマンティコアにとっては堪ったものではなかったようで、おとり役は目鼻を押さえてのたうち回った。
『ほら早く! さぁ今だ!』
小青田の声に急かされ、赤尾は目の前の個体目がけて3発の弾丸を叩き込む。
命中。
両前足の付け根と眉間を撃たれた獣はその場に倒れ込む。
続いて毒針のある尻尾の付け根に1発、残り1発を更に頭部に見舞った。
間髪入れずに空の弾倉を排出し、新しい弾倉を装填。
少し離れた場所で、のたうち回るもう一頭──さっきまではおとり役だった──目がけて、オープンサイトで狙いを定めて撃ち込む。
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