#1 闇に嗤う獣

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 2頭が動かなくなったのを見届けた赤尾は、どっと押し寄せる疲労に堪えきれず、棘だらけの下草など気にせず膝をついた。 5.  2頭のマンティコアのいずれも、毒針を弾切れさせていたのは不幸中の幸いだった。  尻尾の先にある毒針は、旧ソ連の特殊部隊員が使っていたナイフのように射出可能だ。だが、使えるのは1度だけ、再生するまで短くとも数日はかかると言われている。  きっとどこか、別の場所で使っていたのだろうと、ウェアラブル端末越しに小青田は仮説を口にする。理由はどうでもいいと赤尾は思ったが、それでも、先刻まで疎ましくてならなかった筈の声が心強かった。 『夜の森に一人で入るなんて、死ぬつもりか!?』 「うん、ごめん」  かすれ切った小青田の声に、赤尾は小さく詫びる。端末から聞こえる声が途絶え、困惑したように乱れた息づかいに変わる。 「どしたん?」 『どうしてお前が謝るんだ? 根本的な原因はおれだろうに』 「ん、そだな」  そこは否定しないのかと愚痴る相棒の声に、赤尾は笑う。ついさっきまでの苛立ちは、嘘のように消え去った。 「おれも言い過ぎた。そこんとこはゴメンな」  赤尾は素直に詫びの言葉を口にする。そう、最初からこうすれば良かったんだ。あのとき、一歩引いて冷静になっていれば、こんなバカな真似しなくて済んだ筈なのに。  端末の向こうが、ふたたび静かになった。 「コーダ? おーい、もしかして寝落ち?」  時刻は既に午前2時過ぎ。草木も眠るなんとやらだ。
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