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勇気ぼろぼろ
今日も空は青い。僕は校舎裏で大の字に空を見上げていた。何度も腹を蹴られ、顔を殴られ、唇は切れている。喧嘩なんか勝てたことはない。ただ、奴らがカツアゲをしている現場を見過ごせなかったんだ。
助けた生徒はいつの間にか逃げていた。僕がぼろぼろになるだけで誰かを救えたのならば悪くはないはずだ。
僕は痛む腹を押さえながら立ち上がる。校舎裏から校庭に向かうといち早く僕を見つけた君はすぐに駆け寄ってくる。
「またこんなにぼろぼろになって……。保健室行くよ」
君は今日も喧嘩をする僕を叱らないんだね。いつか弱いんだから喧嘩なんかやめてって言われる気をずっとしているのだけど、高校生の今になっても君はそんなことは言わない。
君は僕の体を支えながら一緒に保健室に向かう。保健室の先生は、またかと呟いて僕の手当てをはじめる。
「お前は強くないのに、よく喧嘩をするな。勇気があるんだかないんだか」
「僕は勇気があります」
「はいはい。あんまり笹山を困らせるなよ」
「大丈夫です。私は奏の彼女です」
そう。笹山 妙は僕の彼女だ。幼稚園の頃からのお付き合い。妙は変わらずに僕、長谷川 奏の彼女だ。
僕に勇気があるなんて大嘘だ。ずっとずっと分かっている。僕は泣き虫で弱虫なんだ。それを隠すように僕は勇気のあるふりをする。本当はカツアゲなんて見てみぬふりをしたかった。
でもさ、大切な彼女の前ならば格好つけたいじゃん? だから僕は今日も嘘をつく。
はじまりは十年も前の幼稚園の頃だ。僕はみんなから離れて絵本を読んでいるような大人しい子だったんだ。妙はみんなと一緒に駆け回るお転婆な子だった。
僕らが見ている世界は違ったはずだ。ただ僕には一つ特技があった。幼稚園にあった絵本を全て読んでいたために、そのほとんどを覚えていた。
それは雨の日だった。みんな外で遊べないものだから、中で遊んでいた。その内の何人か絵本を読んでいた。
「あの絵本ない! 」
妙が叫んだのは、雨の音が強くなりだしたお昼間近だった。
「なんの絵本だよ? 」
誰かがそんな言葉を妙にかけた。
「山の絵本! あれ好きなのに! 」
僕はその中、静かに絵本を読んでいた。だが妙の周りはざわつく。
「山の絵本? そんなのなかったろ? この嘘つきーー」
妙に声をかけた男子はいやらしく笑った。妙を困らせようとしたのだろう。
「あるもん! 」
妙は全く引かない。
「ないわ! 誰も読んでないよな? 」
その男子は周りに同意を求めた。逆らったらただじゃ置かないという空気を保ちつつ。
「あるもん! 奏、知ってる? 」
妙はいきなり僕に振ってきた。
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