勇気ぼろぼろ

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「奏は幼稚園の絵本全部読んでるから知ってるよね? 」  正直関わりたくなかった。男子は僕を睨んで来る。 「弱虫の奏が幼稚園の絵本を全部読んだって嘘に決まってるだろ! 」  妙は僕の顔をマジマジ見る。僕は絵本を置いた。 「山の絵本あるよ。持ってくるね」  僕は幼稚園の絵本がどこにあるかも知っている。本棚の一番の下の一番右から僕は山の絵本を取り出す。 「これだよ」  男子は黙りこくる。その中、妙が手を叩いた。 「奏すごい! 私、奏と付き合う! 」  そんな流れで僕と妙は付き合うことになったのだが、僕はもともと弱虫だ。妙に嫌がらせをしてきた男子は僕に絡んでくるようになった。 「お前と妙は釣り合わない! 」  男子はときに僕を殴り、僕はその度に泣いた。その都度、妙は僕に寄り添ってくれる。 「僕、妙ちゃんと別れる……」 「駄目! 私は奏がいいの! 私が守るから! 」  妙が嫌いか好きかで言ったら好きであることは変わりない。だが、痛い思いをするのは嫌だった。  今思えば、妙に嫌がらせをした男子は妙のことが好きだったのだろう。そのために嫌がらせをしてきたのだろう。  だけど女の子に守られるなんて……。幼い僕は悶々とした数日送った。その間も男子は僕に嫌がらせをしてくる。 「早く妙と別れろって言ってるだろ? 弱虫! 」  男子が僕の腹を殴ってくる。この数日で僕が決めたことがある。僕は嘘をつこう。妙ちゃんのために嘘をつこう。 「いい加減にしろ! 」  僕も男子の腹を殴る。 「やんのかよ!? 弱虫のくせに! 」  わちゃわちゃと殴り合いをしているとそこに妙が割り込み、男子に平手打ちを食らわせた。 「いい加減にしてよ! 大っ嫌い! 」  男子は大人しくなった。完全に妙に振られた。妙は直ぐ様に僕の様子を確認する。 「奏、ごめんね。私のために……」 「いいよ。僕、妙ちゃんのために勇気のある男になるから。例え嘘でもさ」  あれから十年。妙と僕の関係はまだ続いている。  保健室の先生は気を聞かせて僕と妙を二人にしてくれた。 「奏、もう大丈夫だよ」  保健室のベッドで妙にそう言われて僕は涙を流す。何度も袖で目を擦りながら。 「ちくしょうちくしょう……」  妙は黙って、僕の頭を撫でる。 「奏は弱虫だもんね」  勇気があると嘘をつき始めてから僕は人前で泣かなくなった。ただ妙の前でだけ泣いている。辛いとき。悲しいとき。痛いとき。それが本当の僕。 「僕は勇気なんかないんだ。ただ格好つけたいだけだ……」
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