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俺はごく普通の家庭に生まれ育ったつもりだったが、今日はちょっと家の雰囲気が違っていた。
黙ってじっと座っていた父親がまず覚悟を決めたように口を開いた。
「今まで嘘をついていたが、実はわしはお前の父親ではないのだ」
『なんだって!?では何者なんだ?』と口から出かかったが、驚きのあまり言葉が出なかった。
父親を名乗ってきた男の眼が不気味に光り、口元には薄笑いが浮かんだ。
「フッフッフ」という声が次第に大きくなると、突然、謎の父親は巨大なザリガニに変身した。
「ファッファッファッファッファ…
今まで騙していたがわしはタンバル星人なのだ。地球の日本人に化けていただけなのだ」
「ファッファッファッファッファ…」
驚く間も無く母親が言った。
「あらわたしもお前の母親じゃないのよ。今まで嘘をついてたの。ホッホッホッホッホッホ…」と笑いながら、母親を自称していた中年女は、がま口のような顔をした怪物に変身した。
「私はサツタバゴンよ。お札が大好きな怪獣なのよ。ホホホホホホホホホ」
道理でケチだと思ったよ。
まだ終わりではなかった。妹が遊びから帰ってきたのだ。
「お兄ちゃん、何を固まって座り込んでいるの?」
俺は、変身した父親と母親だったはずの未知の生物の方を顎でしゃくった。
妹は驚いたように
「お父さんもお母さんも正体は怪獣だったの!
しょうがないわね。私も正体を現すわ」
俺はびっくりして妹をまじまじとみた。
妹も変身して、悪魔のような姿になった。
「ホーッホッホッホ。私がお前の妹というのは真っ赤な嘘。正体は魔界からやってきた魔女なのよ!驚いたでしょ」
驚いた。全員種が違うじゃないか。
そこへ異変を感じた飼い猫のミーコがやってきた。
ミーコは変身した三人の姿を見るや、毛を逆立てて「フーッ!!」と威嚇の体勢を取った。
そしていきなり巨大化すると化け猫に変身した。
「我は猫又なり。騙していたわけではなく、長い年月住み着いていたので昨年、猫又に昇格したのだが、言いそびれてしまい黙っていたのだ」
そういえばミーコが生まれたのがいつかは、父も母も知らないと言っていた。
ここまできては仕方がないなぁと俺は思い、自ら変身することにした。頭の上に輪っかが浮かんでおり、天使の羽が背中に生え、ひげを生やした白髪頭のなんちゃって神様である
「わしもいままで嘘をついてきた。じつはわしは神様なんじゃよ。お前らより偉いんだから、大人しくわしの言うことを聞きなさい」
それからは喧々諤々。
もと父親は「ふざけるな、宇宙一の知性を誇るタンバル星人こそこの家の盟主にふさわしい」
もと母親は「金もない連中がふざけたことをヌかすんじゃないよ」
もと妹は「フンッ、冗談じゃないわ。悪魔が最高位に決まってるじゃないの。私がトップよ!」
俺は俺で穏やかに「まぁ、神様のいうことをきいとけば間違いないよ」と皆を諌めたが収集がつかなくなっていた。
猫又の元ミーコはあきれた様子で成り行きを見守っていたが、本姓は猫らしく、無関心に丸くなって眠り始めた。
その時、ゴゴゴゴゴと地鳴りのような音がして、家全体が持ち上がった。
「なんだなんだ!」
「地震かしら!」
見る間に家は変形していった。
全員が柔らかいモノに弾き飛ばされて外に転がり出た。
「なんだあれは?」元父が叫んだ。
砂埃が鎮まると一体の巨大な影が形を表し、その正体を見せた。
超巨大な狸だった。
「お前ら、いい加減にしろ!!せっかく家に化けていてやったのに、俺の努力もめちゃくちゃじゃないか!!!」
ずしっと腹に響き、ものすごい迫力のある重たい声だった。
「た、狸の神様…」元父親のタンバル星人がガクガク震えながらやっとの思いで呟いた。
元母も元妹もポカーンとしていたが、急にガクガク震えだし、平身低頭の姿勢になった。
俺もタンバル星人も慌てて頭を地面にこすりつけた。
猫又だけはミーコの姿でスヤスヤと眠っている。
「お前ら揃いも揃って嘘ばっかりつきやがって、俺様をなめるんじゃねぇ!!!」
狸の神様が一喝すると、元家族は父親から順番にポンポンと煙と共に、小さな狸に変身していった。
というより狸に戻ったのだ。
猫又を除いて、俺を含めて4匹の狸が、狸の神様の前に正体を晒された。
「せっかくのわしの好意が無駄になった。いい加減にして欲しいぞ。もう少し見込みがあると思ったんだがな。
さあ、遊びは終わりだ。みんな森に戻って、狸らしい生活をするんだな」
狸の神様はそう言うと猫又の方を向いて礼を言った。
「面倒をかけたな、ありがとよ」
猫又は、「気にするにゃ。お互い様じゃて」
そう言うと、神社の方に向かって飛んで行った。
みんなの話によると本当は俺たちは狸の家族だそうだが、今更信用する気にはなれなかった。このままバラバラに暮らしたほうがいいだろう。家庭崩壊だ。家も崩壊したことだし。
まぁ、俺は一人でやっていくことに決めた。
で、俺はおずおずと狸の神様に尋ねた。
「あのう、ぼくたちを弾き飛ばしたのは、神様のお腹なのでしょうか?」
神様は答えて曰く。
「あぁ、あれか? わしの○ん○まじゃよ」
狸の神様の巨大さが偲ばれる逸話である。これはホントの話だ。
(作者談)
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一番嘘つき
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