真夜中に

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真夜中に

その夜はぐっすりと眠っていた。 …はずだった。 ふと目が覚めると枕元に妻がいた。 彼女は正座をしている。キャメルのスカートに白いニット。 少し前に妻が亡くなった。 葬式も滞りなく終わり、それからしばらくすると彼女は倒れた時と同じ姿で毎晩俺の枕元に座るようになった。 「ねえ…」 なんであの日は帰って来なかったの? いつもの時間に帰ってきてくれれば私は助かったのに… どこに居たかって? 言えないから黙っている。 と、普段なら彼女は諦めて違う話をする。 結婚してからずっとそんな風にごまかして過ごしてきた。 彼女が俺にとって都合の悪い事を聞くたびに俺の機嫌が悪ければ怒鳴り返し、しばらく口をきかないで無視をした。 さすがに手を挙げる事はしなかったが。 暴力を振るうと警察沙汰になるし、離婚は会社にいる身としては不利だからしないと決めていた。 不都合はなかった。 共働きだからと理由をつけて生活費は少し渡して 「これで足りるはずだ」とつっぱねた。 食事は毎日はいらないからたまに作って欲しいと妻に告げて少しだけ渡した。 たまに足りないと言われたが「家計管理が悪いからだ!」と説教したり怒鳴ったりすれば妻は黙った。 だからほとんどが小遣いだ。自分の好きな物を買い貯金をし、自由に生活できていた。 妻は娘の塾代も払い続けた。 長女が高校生に入った時に学校の帰りに某予備校に通いたいと言い出した。 進学率もいいが入学金も塾代も高いので有名な所だ。 その時も俺は知らん顔した。俺は塾なんていらない、俺は行かなくても大学に行けた、と主張してお前が行かせてるんだからお前が払えと突っぱねた。 妻には「行かなくていい」と告げた。 どう工面したか知らないが妻は子供を高校3年間予備校に通わせた。 希望の大学に行けた娘に俺は得意になって周りに 「俺の教育が良かったからな」と話した。 あいつは莫迦だよな、と俺は思っていた。 ついさっきまで。
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