救いの手

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救いの手

家に急いで帰るとポケットからメモ用紙を取り出し電話をした。 さっきの和尚に泣きついて知り合いでお祓いしてくれそうな所を教えてもらったのだ。 「もしもし・・・」電話が繋がったので必死の思いで呼びかけた・・・。 一度来て下さい、そう言われて俺は指定された寺に急いだ。 電車で20分くらいの駅から歩いてすぐの所にその寺はあった。 もう少ししたら夕方になってしまう。 また夜が来てしまう・・・。あせる気持ちで寺に着いた時は息が上がっていた。 寺の階段の所で住職は待ってくれていた。 そして俺を見ると会釈をして寺の中に招いてくれた。 境内に入ると薄暗かった。 早く終わらせて帰りたい・・・。 言われるままに俺は妻の名前を半紙に書き今度は裏庭に連れていかれた。 庭は綺麗に掃除してあり小さな神棚のようなものが奥に設置してある。 住職は「始めます」と言うと神棚らしきものの上にある蝋燭に火を灯しお経を唱え始めた。 お経に合わせて俺も手を合わせ一心に祈った。 もう出てきませんように・・・。 しばらくお経の声が続いた。高くなった声は長くなったり低くなったり・・・とにかく早く終わりますようにとますます一心に手を合わせて祈った。 お経が途切れると住職は蝋燭に半紙をかざした。 紙はあっという間に灰になっていく。それを二人でじっと見た後に住職はこちらを振り向き「終わりました」と静かに告げた。
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