爽やかな朝

2/2

8人が本棚に入れています
本棚に追加
/8ページ
うきうきした気分でPCの銀行のサイトを開いた。 あの時、一週間前の日曜日だ。 三日妻が枕元に来なければもう安心でしょう、と住職は言った。 念のため一週間後に代金をいただければ結構ですと言いながら俺はメモ用紙を渡された。 そこには銀行名と口座番号と名前が書いてあり、一週間その紙は俺にとってお守りだった。 大事に折りたたんで財布に入れて時々取り出しては見つめていた。 本当に大丈夫なんだろうか? 夜が来るたびに憂鬱になった。 酒を飲むのは毎日だけど飲まずにはいられない。量も増えた。 毎日陰気な顔をしているからか同僚の祥子が心配そうに声をかけてきた。 「大丈夫なの?」 ちょうど誰もいない廊下で小声で聞いてくる。 「ああ」小さい声で返した後でありがとう、と付け加えた。 「大丈夫そうに見えないんだけど・・・」 心配してくれるのはありがたいが、どこかで妻が見てるのかもしれないと思うとうかうか話はできない。 祥子とは会社の同期でゴルフ仲間だ。気心も知れているし・・・早い話がW不倫の相手でもある。 ゴルフというのは実に都合の良いツールだ。 打ちっぱなしの練習もコースに出るのも«ゴルフ仲間»と言えば言い訳になる。他にも仲間はいるから誤魔化せるわけだ。 「心配なんだけど・・・」構わず話しかけてくる祥子に 「大丈夫だから」もう話しかけなくていいから。 「あのね、」祥子は構わず早口で言った。 「夜にあなたの奥さんが来たのよ」 へ?祥子の眼は真剣だ。固まった俺に祥子はメモ用紙を押し付けてさっさと階段を下りて行ってしまった。 小さな付箋のメモ用紙には「さよなら」と書いてあった。 「なんだよ…」俺は独り言を呟き、立ち尽くしていた…。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!

8人が本棚に入れています
本棚に追加