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「汚れた海でサンゴ弱った。
その穴埋めに、おまえたち先進国の人間の骨、使うネ。
健康な骨、待ってタ」
「おまえたち」という言葉に引っ掛かりを覚えた俺の顔の下で、周囲のサンゴよりも色のくすんだ欠片が頬を刺した。
サンゴにしては大きく、まるみを帯びたそのかたまりには、人間の眼窩特有の窪みがふたつ並んでいた。
俺の前に騙され、連れてこられた人間の成れの果てか。
こいつらが日本語の会話に手慣れているところをみると、この白骨もおそらく日本人――。
「陸地沈んだこの島、今はサンゴと<バイト>で出来てるネ」
「くそ、最初からそのつもりだったのか……こっちが平和ボケしてるのをいいことに、残忍な嘘をつきやがって……」
「わたしたち嘘つかない。おまえ、島とともに生きて、島の土に還ってもらうダケ」
嘘つき呼ばわりされたのが心外だったのか、彫りの深い顔つきの男が黒々とした太眉を寄せた。
あぁ……確かにこいつが言っているのは……あの求人情報に掲載されていた人生観そのものじゃないか……。
「一か月生きていれば金もヤル」
一か月どころか間もなく命を手放そうとしている身には、おいしい儲け話などもはや縁のない話だ……。
穴場のバイトなんてどこにもなかった。あったのは、墓穴だけ……。
上空では何かに興奮したかのようなカモメの群れが、ぎゃあぎゃあと甲高い鳴き声を上げている。
島の新住民となった俺は、こうして島の土に還った。
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