人生の穴場

5/10
前へ
/10ページ
次へ
 船尾に備え付けられたベンチを発見すると、身を横たえて目的地到着までひと眠りすることにした。  船長はいけ好かないやつだったが、これからのリゾートライフが楽しみで、いい夢がみられそうだった。  都会のみみっちい生活とはおさらばだ。僻地で物価も安いだろうし、今までとは比較にならない給料が出るのだから、現地の美女でも引っかけて贅沢三昧やってやるのも悪くない。  海風が吹き抜ける船上は涼しいかと思ったが、それを無に帰すほどの容赦ない陽射しが照りつけてくる。俺は日本から着てきた安物のシャツを脱ぎ捨てた。  くたびれたタンクトップ一枚になるとようやく暑さが和らいで、日光の中でまどろんだ。  飽きるほどの時間が流れたあと、船の揺れの変化に目を覚ました。  見ると、野球場ぐらいのサイズの小島に、船は着けられていた。  しかしこれは島と言っていいのか……中央の大部分には陸地がなく、細い外縁部がまるく輪のような形になっている。  ところどころ低木の生えた白っぽい海岸線が、ドーナツのように内海を取り囲んでいた。  そういえば、この島は現在サンゴ礁だけでできていて、もともと陸地だった部分は水没したとか言っていたな――。  奇妙な光景を前にして、ここに来る途中、話半分に聞いた船長の言葉を思い出す。 4fe4c30a-70c5-406e-8aec-88829491d596
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

11人が本棚に入れています
本棚に追加