人生の穴場

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 それじゃあ、このぽっかりと穴の開いた海の下に、船長が言っていた“陸地だった頃の島”が沈んでいるというのか。  環境問題になどてんで興味のない俺でさえ、温暖化によって海面の水位が上昇するという話はよく耳にするが……。  その結果として島がひとつ沈んだなんて、目の前にしても実感が湧かない。  サンゴ礁の島に上陸した俺の靴が、ジャリッと海岸の白い欠片を踏み砕いた。 「あなたの足の下、死んだサンゴ」と船長が乾いた口ぶりで言う。  ――へぇ、死骸と聞くとちょっと気味が悪いな。  降り立った足場は不思議な硬さを持っている。  サンゴといえばもっと色とりどりのイメージだったけど、死んだらこんなふうに白くなるのか。 「もうすぐ島の人、迎えに来るネ。待ってて」  そう言い残した船長は、がたついた船に再度乗り込むと、(いびつ)なエンジン音を立てて島から去っていった。  そういうことならと、海辺に打ち上げられた流木に腰掛けてずいぶん待ったが、現地の人間は一向に姿を見せない。  危機感を持ちはじめた俺は、近くを散策してみようと立ち上がった。  内海の向こう岸に見えている、緑が生い茂った中に人家があるのだろうか。
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