人生の穴場

8/10
前へ
/10ページ
次へ
 立っているのも苦しくなってきて耐え切れず、白く硬いサンゴ礁の上に身を横たえた。  ひんやりとした冷たさを期待したが、日光を存分に溜め込んでいて生ぬるいのが忌々しい。  あぁ、このままじゃ死ぬ。冗談抜きで死ぬ――。  朦朧とする意識が途切れないようにどうにか保っていると、顔の上に影が差した。  薄目を開けてみれば、日に焼けた何人かの男たちが俺のことを見下ろしている。  良かった、現地の人だ。助かった。 「やっと次の、新しい<バイト>来たネ。  おまえ、カルシウムになるまでもう少し待つネ」  男の言った意味がわからなかった。カルシウムになるってどういうことだ? 人間がカルシウムに?  そこで、さっき頭に()ぎった「死」という文字がよみがえった。  ――いや、待て。このまま死んで肉体が腐敗すれば、骨だけが残る。つまり、カルシウムだ。まさか……。  ひとつ確かなことは、男たちに俺を助ける気はなさそうだ。  ほかに救いを求めようにも、男たちに取り囲まれて、こんな異国の島に味方がいるはずもない。  いや、仮にここが日本だったところで、俺には頼りにする親族のひとりもいないのだ。  俺の消息が途絶えようとも、それを不審に思う人間などこの世に誰ひとりとして存在しない。  金さえあれば人付き合いなどせずとも生活できる日本では、抱いたことのない無力感に俺は(さいな)まれはじめた。
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

11人が本棚に入れています
本棚に追加