人生の穴場

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 そのバイトを見つけたとき、ちょうど俺は人生に嫌気が差していた。  フリーターを長くやってきて、いくつかの派遣会社にも登録しているが、所詮は使いっぱしりだ。  一番面倒な汚れ仕事を(てい)よく押し付けられるばかりで、とても人間扱いされているとは言えない。  日がな一日、無機質なビルの中に押し込められて、生活をつなぐための日銭を稼ぐ毎日にはもううんざりだった。  あぁ、なんとかして働かずに自由気ままに生きたい。  太陽の下で自然に囲まれてのんびりと暮らす。それが人間本来の姿ってもんだろう。  そんなふうに考えていた俺にとって、ネット広告で見かけた求人はまさに打って付けの案件だった。  それは、海外のとある島に住み込みで働くバイトだ。  勤務地となる島は小さいけれど温暖で、現代では珍しい大自然の島らしい。  太平洋に浮かぶその島は日本からは遠く離れているが、現地までの交通費は全額出るそうだ。  どうせ今までも派遣会社に言われるがまま、あちこちで働いてきた。辺鄙(へんぴ)な場所に行くのには慣れている。  なんと言っても魅力的だったのは、求人サイトに掲載されていた、そこで暮らす人たちの人生観だ。  ――島に生きる人間は、島とともに生き、島の土に(かえ)る。  これこそ俺が求めていた理想の生活だ。  肝心の職務にはスキルも体力も不要で、一か月勤めれば大学卒の初任給ほどの月給が出るらしい。  おまけに、島の恵みは無料で享受できるという。  これまで最低賃金で自分の時間を切り売りしてきた俺には目の(くら)むような、縁遠い世界がそこにはあるようだった。
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