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「かくれんぼしよう。」  いくら疲れても眠りが浅い私の耳に、聞き覚えのない子供の声がして目を覚ます。  ぼやける目で光るデジタル時計を確認する、時刻は午前4時。起きるには少し早い時間だ。  まだ頭はぼーっとしていたが、子供の声で目を覚ましたことに、うっすら意識が運ぶ。小学生、低学年の男の子の声。そんな印象を覚えていた。  私に子供はいない。歳はそろそろ三十路だが、仕事の関係で家庭を持つ暇がない。両親から孫が見たいと口うるさく言われ始めたが、私にはそもそも、家族や恋人に興味がなかった。  眠りが浅いと、夢を見やすいとか何とか。だとしたらただの夢だろう。ほんの少し汗をかいていたので、水分補給するために、畳の上に敷いた布団から立ち上がる。  午前4時とは言っても、カーテンを締め切っているのでとても暗い。しかし普段からこんなに暗かっただろうか。窓の外は通学路なので、外灯は必要以上に多く、カーテンをしていても明るかった覚えがある。  暗闇の中で手探りに電気の紐を探す、我が家の電気は紐を引っ張るタイプなのだが、一向に紐が見つからない。  少し目が暗闇に慣れた頃、改めて紐を探すがやはり無い。仕方なく暗いまま、慣れ親しんだ台所へ行き水を飲む。口の中が潤い頭がスッキリとしたので、暗闇だった部屋の中が今度はしっかりと形を表した。  今更気付いたのだが、台所の電気を点ければいいではないかと。しかし用事は済んでしまったので、無駄な電力を使わないために、そのままの足で布団へ戻ろうと歩く。……ふと、気のせいだろうか。カーテンの向こうを何かが遮ったような。  相変わらず外は暗いようで、部屋の中には一つも光が入らない。何となく電気を点けないでいたが、寝ている間に雷でも落ちて、実は停電してるのだろうか。  暗い中何かが遮ったのも気になり、私は布団に向かっていた足を窓に向き直した。  そのままの流れでカーテンに手を掛け、両手を広げるように開いた。  カーテンの向こうは通学路ではなく、子供の顔が窓に大きく張り付いていた。  低学年の、小学生の男の子だ。無邪気に笑っている。  かくれんぼ、あれは夢ではなかったのか…。悲鳴を上げることなく私は布団に倒れた。薄れる意識の中、窓の向こうの男の子は、何度も何度も、「見ィつケた、見ィつケた。」と叫んでいた。その度に窓はガタガタと震えていた。  私は二度と、暗闇の中でカーテンを開けることは無いだろう。
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